2017/07/06
ビッグデータマガジンの高橋です。
ビッグデータを定義する言葉として、3つのV(Volume, Variety, Velocity)という表現はずいぶん浸透しつつあるものの、まだ具体的に定義されない状況が続いています。そのため、さまざまなサービス・技術が「ビッグデータ」に便乗する形で、ビッグデータブームに拍車を懸けているともいえます。
一方で、ビッグデータが生み出す価値については、さまざまな事例が提示されてはいるものの、価値について分類されたものはあまり多くありません。その結果、前回の記事にも書いたように、ビッグデータが「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2013」において「『過度な期待』のピーク期」と言われるに至っているのではないかと感じています。
そこで、今回のビッグデータマガジンでは、ビッグデータが生み出す価値を整理していきます。キーワードは、3つのA(Actionable, Accurate, Alternative)です。
1つ目のA「Actionable」:迅速な意思決定や行動を支援する
ビッグデータがもたらす最大の価値は、ビジネスにおける意思決定や行動支援につながるという点です。もう少し具体的にいうと、意思決定や行動したいタイミングで分析結果が得られるという点です。
これまでも大量の社内データから、帳票や分析結果は得られていたことでしょう。しかし、その分析に時間がかかっていると、一定期間前の過去に関する状況を整理したレポートとなってしまい、いくらわかりやすく可視化できたとしても、次の行動に対する示唆を得るには、「時すでに遅し」となりかねません。
これは、3つのVのなかでVelocity(速さ)に相当するものです。ここでのポイントは、ただむやみに速いということが大事なのではありません。求められている速さは、それぞれのビジネスやサービスによって異なります。
例えば、地震速報であれば、危険回避につながる速度での速報が不可欠でしょう。ゲリラ豪雨の予報であれば、5-10分あれば雨を避けられるかもしれません。ソーシャルゲームのユーザ行動であれば、1時間や1日単位の変化に目を向け、ユーザの離反を防ぐようにしているそうです。
このように迅速に分析する技術こそが、NOSQLやインメモリデータベースなどのビッグデータ技術であり、技術者がこの速度を上げる努力をしてきたことで、分析結果が単なる状況把握にとどまることなく、次の意思決定や行動を支援できるようになったと言えるでしょう。
<参考:ビッグデータと「NOSQL 」:前編>
https://bdm.dga.co.jp/?p=589
<参考:ビッグデータ活用で「命を守る」情報を提供 :緊急地震速報 編>
https://bdm.dga.co.jp/?p=779
<参考:ビッグデータ活用で「命を守る」情報を提供 :気象情報 編>
https://bdm.dga.co.jp/?p=753
2つ目のA「Accurate」:より精度の高い分析結果が得られる
大量かつ多様なデータの分析が行えるようになるということは、サンプルデータで得られた結果よりも精度の高い分析結果が得られるということをさします。
全てのデータを取ることが非常に困難な状態において、一定量のランダムサンプルを統計分析することで、全体の推測、推定を行うことができます。
しかし、この分析においていつもつきまとう問題として、サンプルの質・量の妥当性です。サンプルが本当に適切なばらつきを持っているのか、全体を表すのに十分な量かという点が一度疑われてしまうと、それまでの分析結果そのものを否定されかねない事態にも発展しかねません。
例えば、関東地区の約1500万世帯のテレビ視聴率を算出するために、用いられているサンプルデータはどの程度かご存じでしょうか?
視聴率算出のための機械が設置されている家庭はおよそ600世帯だと言われています。この量が適切か、ばらつきについては妥当か、といった議論はこれまでもなされたことでしょう。当然費用対効果も考慮し、600世帯ということになったのではと推測します。
ところが、ビッグデータの時代になり、もっと多くのさまざまなデータが取れるようになってきたことで、より精度の高い分析結果を得ることが可能になったはずです。
例えば、ビッグデータのVariety(多様性)により、視聴率を多角的に検証することも可能です。ある家庭では、ある特定のチャネルが放送されているものの、テレビの前で寝てしまっていたり、席をずっと離れていたりということもあるかもしれません。
番組を実際に見ているかどうかは、センサーを用いてテレビの前に座っている人数を把握することでわかるかもしれません。また、Twitterなどのソーシャルにおけるつぶやきの時間やボリュームからも、異なる視点での検証が可能でしょう。
このように、センサーやインターネットなどのIT技術の進化により、大量のデータを取得しやすくなってきています。また、得られる全てのデータを分析することが可能な技術の普及により、精度の高い分析結果が得られるようになったと言えるでしょう。
<参考:熱中症対策とビッグデータ(サポーター情報を用いた気象予測)>
https://bdm.dga.co.jp/?p=460
3つ目のA「Alternative」:気づかなかった小さな変化や他の代替案に気づく
ビッグデータに対して、最も高い期待が寄せられるのが、「気づかなかった新しい法則に気づく」ことではないでしょうか。
この法則とは何か、気づきやすい順=他の代替案を生み出しやすい順に、3つの観点で見ていきましょう。
1つ目は、分析により得られたさまつな変化、これまでは無視してきたような変化に対する示唆/意味を見いだすということです。変化があまりに微小なために気にしていなかった変化も、他のデータや、他の切り口で用意に短時間で分析できるようになったことで、気づかなかった予兆を特定できるチャンスが増えます。
2つ目は、サンプルから漏れていた微小なデータを分析することで、新たな示唆を見いだすということです。どれだけランダムにサンプルデータを取ったとしても、サンプルである以上、そこからモデル少数派のデータは存在します。大量のデータを分析することで、少数派ならではの傾向も見えてくるでしょう。
最後3つ目が、今まで見てきていたデータからでも新しい法則が見いだせることがあるということです。俗にいう「おむつとビール」のような法則が見いだせるかどうか、そのためには、分析そのものにかかる時間を短縮化し、示唆を導き出す人がストレスなくさまざまな視点で分析結果を見られることで実現可能になります。
これらを組み合わせることで、さまざまな可能性に満ちた代替案が生み出せるようになります。一方で、あくまでこの示唆を生み出すのは人間であることから、必ず法則が導き出せるというわけではなく、また、その効果も時に微小なものであることも忘れないでください。
<参考:「QlikView」クリックテック・ジャパン株式会社さまインタビュー:後編>
https://bdm.dga.co.jp/?p=914
3つのAを成果につなげるには
これまで、3つのAの視点でビッグデータの価値をみてきました。この価値を成果につなげるには、これまでにも記載いたしましたが、いくつか気をつけるべき点があります。
例えば、意思決定や行動につなげられる速さとはどの程度の速さかを、現場を見て理解することは極めて重要です。ビッグデータの分析処理速度が高まったとはいえ、むやみにデータを増やせば速度を維持するためにコストがかかります。
また、いくら速度を上げたとしても、その後の人間の行動が遅ければ宝の持ち腐れです。そのためにも、データ分析結果の精度が高まったことを受け、分析結果を信じて即座に行動に移す文化が根付くことが重要です。
さらに、分析によって得られる示唆は、とても大きな結果を生み出すものではなく、小さな成果でしかないこともあるということを理解しておきましょう。
すでにさまざまなビジネス上の法則をこれまでも経験や簡易な分析から生み出していることでしょう。ビッグデータで得られる新たな法則は、これまでに気づいた大きな法則とは異なる小さな法則かもしれません。ただ、それらを積み上げることが、成功につながると信じて実行していくことが重要です。
ビッグデータ活用は、これまでのITと同じく、ビジネスの成功に向けた手段です。ということは、導入すればすぐに成果が出るということではなく、成果を生み出せる組織、文化や地道な人による努力が必要不可欠です。
逆にどんな成果を生み出すか、明確な目標をもって、努力を怠らず取り組んでいけば、一定の成果を得られることでしょう。さっそく、皆さんのビジネスの現場における最適な3つのAとは何か、考えてみてください。