2017/07/06

ビッグデータマガジン 小暮です。
ビッグデータに関わるソリューションや人物のお話を伺う「ビッグデータマガジン・インタビュー」。今回は、メディア向け気象情報提供や緊急地震速報サービス等を展開している株式会社ハレックス(以下、ハレックス)です。
世の中ではここ数年、「クラウド」や「スマートデバイス」、「ビッグデータ」などのキーワードを目にする機会が増えてきましたが、ハレックスでは気象庁が作成・提供する気象ビッグデータを活用したビジネスを展開されています。
同社におけるビッグデータ活用の取り組みについて、代表取締役社長である越智 正昭氏にインタビューしました。
■気象・地象・海象を全てカバーする総合気象情報会社
—はじめに設立の経緯などについてご紹介いただけますか?

株式会社ハレックス
代表取締役社長
越智 正昭氏
ハレックスは、1993年に設立した気象情報サービス会社です。今年で丁度20年目を迎えます。1993年は気象業務法が改正された年であり、それまで気象庁しか携われなかった予報業務が民間事業者でも実施できるようになりました。
— 御社では「生活達人応援企業」を企業コンセプトとして掲げていますね。
私たちが生活する日本は、地震や津波、台風など様々な自然災害に見舞われています。我々気象情報に関わる者には、日本に住む人々の暮らしをいかに自然の脅威から守れるか、安心と安全を提供するための情報を出し続けることができるかが問われていると考えています。
全ての自然災害に向き合いたいという想いから、我々は気象(天気)に関する情報を提供するだけではなく、地震や火山活動などの「地象」、波浪や海流などの「海象」を含めた、総合的な気象情報を提供する必要があると考えています。
— 御社ではどのような気象情報を提供されているのでしょうか。
狭義の気象(天気)分野では、気象庁が一般向けに発表する情報をテレビ・ラジオ各局に提供したり、気象庁から提供された各種観測データや数値予測データをカスタマイズして流通・建設業、鉄道会社などの民間企業に提供したりしています。近年では、ゲリラ豪雨や雷、竜巻などの突然発生する局所的な気象事象に対する防災気象サービスを、地方自治体やインフラ事業者に提供し始めています。
地象分野としては、民放テレビキー局・系列局・BS放送局や電力会社等に対して緊急地震速報サービスを提供し、津波情報も提供しています。
また海象分野では、NTTドコモ様の衛星電話サービスを介した海洋気象情報を約7500隻の船舶にてご利用いただき、船舶事業者向け海外航路のナビゲーションサービスも提供しております。
■「いま」「ここ」の気象情報を表示
— 気象・地象・海象と幅広くサービスを展開されていますが、はじめに気象情報サービスの内容と特長について教えていただけますか?
ハレックスでは、気象庁からの気象ビッグデータを高速解析し、緯度・経度の情報と紐付けることで日本全国の任意地点の気象予報を提供できる気象APIサービス「FSP」を開発し、クラウド技術を活用して利用者に提供しています。
気象庁の数値予報モデルでは、格子間隔が5~20kmの格子内の平均値として数値予報データが作成されます。しかし、日本のように地形変化が大きい地域では、5~20km格子の平均値のみでは地域特性に応じた予報を提供することは難しく、地域特性を補正する必要があります。ハレックスでは、気象庁の数値予報データを1kmメッシュ格子に細分化して“面”展開し、かつ1kmメッシュ格子毎に標高補正処理を施しています。
— 気象庁から提供された地理的に平均化されたデータを、実際の地域特性を踏まえたデータに再加工しているということですね。
元のデータのままでは必ずしも利用者が使いやすい状態ではないので、利用者が求める情報や、その情報を元にどのような意思決定を行うのかを踏まえて加工する必要があります。先ほどの話は地理的な分解能に関してですが、時間分解能に関しても同様です。
気象庁から提供される気象ビッグデータは、1時間単位の時系列予報情報として1日4回発表されます。ただし、気象庁から計算結果を受信した時点で既に数値予報時に使用した観測値の時間から5~6時間経過しているため、予報情報と実況にズレが生じ始めた場合は、その乖離が大きくなることもあります。民間気象会社としては、予報と実況との乖離をいかに早く察知し、修正した予報を利用者に伝えていくかが課題です。この課題を解決するために、ハレックスでは気象庁の予報データに対して最新のアメダス観測データやレーダー観測データを活用して30分毎に実測補正処理を行い、常に最新の“鮮度”の高い気象予報データの提供を行っています。もちろん、1kmメッシュ格子毎に。
— その他に、気象ビッグデータを活用する際の問題はありますか。
気象庁の気象ビッグデータを利用する際には、格子点毎の予想値の他に、位置・時刻・要素・単位・格子配列などのメタデータを読み取る必要があります。さらに、提供されるファイル形式は独自の圧縮形式であり、データを取り扱うためには複雑な変換プログラムと専門知識が必要になるため、必ずしも利用者が使いやすい状態ではありません。
そこでハレックスでは、コンピュータ処理をしやすくし、もともとのファイル形式を意識せずに簡単に読み取れるように、緯度・経度をkeyとしたAPIを提供することで、地理的な位置情報や情報種別を要求するだけで詳細な気象情報を取得できるようにしました。これにより、自治体の防災担当者や鉄道会社での保線業務等において、情報処理技術や気象に関する専門知識がなくとも気象災害リスクを把握し防災対応行動を判断できるようにしました。

図1:気象情報とGISエンジンを組み合わせた「気象API Viewer by halex」
GIS機能と連動し、任意地点をマウス操作でリクエストすることで気象APIからレスポンスされる気象予測値が表やグラフで表示される。表示される情報は「天気」「気温」「風向風速」「湿度」「雲量」等様々で、1時間毎に向こう72時間先までのデータが表示される。(予報は最新の実況データをもとに30分毎に更新される)
■直面する災害リスクを可視化 防災活動を支援
–最近は日本各地でゲリラ豪雨や竜巻、土砂崩れなどの突然発生する局所的な気象災害が起きていますが、防災対応における気象予報のニーズは高まりそうですね。
そうですね。例えば鉄道会社では降雨による土砂災害やのり面崩落を防止するために、危険箇所に雨量計を設置する等の対策が講じられてきました。しかし、雨量計を設置していない箇所で局地的な記録的豪雨が生じた場合、災害の発生リスクを見落としてしまう可能性があります。だからといって、路線全体をマンパワーに頼って監視することには限界があります。また、雨量計は実況値が得られますが、過去の降雨状況の把握や今後の降水量の推移を把握することは難しく、運行に影響があるかどうかを予見することは難しい状況です。
ハレックスでは、鉄道会社が気象災害リスクを予見し災害防止対応を判断できる情報を提供するため、気象庁が提供する「レーダー・ナウキャスト情報」や「解析雨量」「降水短時間予報」を解析し、任意地点の降水情報を瞬時に取り出す防災気象サービス「防災さきもり®Railways」を開発しました。
— 「防災さきもり®Railways」の特長について詳しく教えてください。
ジャストポイントで降雨情報を提供するASPサービス「防災さきもり®Railways」では、任意地点の降雨情報を緯度・経度のデータとして紐づけた気象APIによって提供されます。これにより、鉄道路線・地域をコンピュータにより自動監視することが可能になります。
また気象庁の気象ビッグデータを全て緯度・経度にて紐付けることで、任意地点の降水強度や24時間の累積降水量、向こう1時間の降水予測を5分刻みで確認できます。また、任意地点のグラフ描画も可能です。本システムはクラウド・コンピューティング技術を用いて提供されるため、一般的なWebブラウザで利用でき、既存のパソコンとインターネット環境があれば誰でも利用可能です。
気象庁の「土壌雨量指数」を活用することで、鉄道路線・地域の土砂災害の危険度を6時間先まで可視化することで、鉄道路線の保線業務を支援することができます。
— 具体的にはどのように危険度を可視化するのでしょうか。
本システムでは、路線・地域毎に運行規制を判断する閾値を1kmメッシュ単位で設定し、地図上に色分けすることで可視化できます。閾値の設定をする際には、鉄道会社の担当者と共に実際に現地を歩いて確認し、それぞれの地域特性に応じて設定しています。
降雨情報が閾値を超えて危険が切迫した状況になりそうな場合は、事前にアラートを地図上に自動表示させ、併せて警告灯や警告メール配信などと連動することも可能です。これにより、危険箇所を見逃さなくなるだけでなく、どの地域が今後どのくらい危険度が推移するかを予測できるようになり、事前に備えるための行動につなげることができます。
— なるほど。単にデータを可視化するのではなく、行動につながる情報を可視化しているのですね。
その通りです。日本のように繰り返し自然災害が起きる地域では、自然災害が発生する前にいかに災害が起きる危険性を予測し、防災対応に向けた行動を起こせるかが鍵となります。
気象庁も膨大で多様な気象ビッグデータを常時配信していますが、その情報を利用者が利用しやすい形に加工するためには気象や防災に関する知見が求められますし、気象や防災の専門家ではない自治体や民間事業者が求めているのは、今後の災害リスクを推測し、取るべき行動を意思決定するための情報です。
ハレックスを含めた民間気象会社に求められている役割というのは、単に気象庁が提供する「気象情報」(お天気の情報)を提供することではなく、自然災害の発生に関する「警報」を提供することだと捉えています。

図2:ジャストポイント(頭上)の気象リスクをアドバイスする防災情報ASPサービス
地図上の任意の地点をマウスでダブルクリックすると、気象レーダーの観測データに基づき、その地点での向こう1時間先までの降水強度の予測を5分毎に表示される(上部)。これは運転指令用に用いられる。また、過去24時間の累積降水量と今後6時間先までの1時間毎の降水量が表示される(上部)。こちらの情報は保線管理用に道いられる。さらに、画面左側の路線図には予め設定された閾値を超える危険区間が表示される。
次回は、緊急地震速報サービスついてのお話をお伺いいたします。
執筆者情報
小暮 昌史(こぐれ まさし)
所属:人材開発サービス事業部
【経歴】大学院博士課程(専攻は火山学)中退後、2007年に株式会社チェンジ入社。内部統制支援、システム移行支援、海外進出支援コンサルティング業務に従事。