2017/07/06

こんにちは、杉浦です。今回は、GIGO(Garbage In, Garbage Out:ガラクタのようなデータをコンピューターに入れても、意味の無い分析結果しか出ない)に悩む担当者むけに、価値ある示唆を出すためのヒントをお届けします。
戦略コンサルティングとビッグデータ・アナリティクスを融合したプロフェッショナル集団「GiXo(ギックス)」の網野社長に解説をしていただきました。
<はじめに>
GiXo(ギックス)は、網野さんがIBMに勤務していた時の同僚2名(花谷さん、田中さん)とともに2013年に設立した会社です。
アクセンチュアで戦略コンサルティングに従事した網野さんは、その後IBMのBAO(Business Analytics & Optimization)においてコンサルティング部門(BAO Strategy)の責任者を務め、本格的なビッグデータ分析と戦略提言をしていました。しかし当時のIBMはハードウエアやソフトウエアといった分析インフラも同時に提供するケースが多く、予算も膨大でプロジェクト期間が長くなりがちだったそうです。そこで、純粋に分析とコンサルティング部分を切り出したサービスをしたいという思いが強くなり、GiXo(ギックス)の創業に至ったのです。
1.分析プロセスの「型」づくり
ビッグデータの分析は、「大量のデータを分散型データベースやKVSなどに格納して統計手法を適用すれば自動的に価値を見いだせる。」という簡単なものではありません。適切なプロセスを経ないためにGIGO(Garbage In, Garbage Out)に陥ってしまうことが多いというのが現実です。
データを有効に活かすには、「ビジネス視点でデータを理解すること」、それを分析し活用するための「技術を駆使すること」、この両方を同時に実施する必要があります。ギックスでは以下のように実現しています。
2.分析プロセスの「キモ」をノウハウ化
図1の青枠で表記したプロセスにはギックス独自のノウハウが詰まっています。このノウハウを反映した分析基盤をクライアントにも提供したいと考えたため、複数の特許を取得しています。
「データ付加価値変換」というプロセスにおける、ひとつのノウハウが独自の「マスター」作りです。例えば、クレジットカードによる大量の購買履歴データを分析して、使用者にとってのカードの位置づけを見いだし、有意なセグメントを設定して使用者に新しい属性を付けます。
「マスター」は“生もの”なので、常に更新し続けています。人気料理店における“秘伝のタレ”みたいですね。クレジットカード業界や食品スーパーマーケット業界については累積分析データ量も多く、かなり熟成した「マスター」になっているようです。
3.事例:クレジットカード業界
下記の図は、クレジットカード業界用の「マスター」作りに欠かせない、ユーザーの属性(セグメント)について説明したものです。左側は一般的な分類方法で、右側がGiXo(ギックス)独自の分類方法です。
当初は、「メイン」「サブ」「特定」の3種類の分類で良いのでは?と考えたそうです。しかし実際にクライアントのビッグデータを分析している中で「メインをさらに分類すると戦略への適用が楽になる。」ことに気づき、改善を続けた結果、現在は7階層15セグメントに分類しています。
ユーザーは同じ「メイン」の位置づけで複数のカードを持ち、「カード使用定番店」、「引き落とし」、「飲食店」などと使い分けるケースが多いのです。
興味深かったのは、このセグメントの元となる主要な分析対象データは「利用先(施設)」だったという点です。もちろん、利用先(施設)によって金額や頻度などのしきい値が設定されています。
4.実例と成果
実際に分析結果をマーケティング戦略に活用している現場では、
(1)現在どのセグメントにあるユーザーを、どこに向かわせたいか?
(2)そのために、どのような施策を実施するか?
というステップで議論を進めます。
①に属するユーザーを②に導きたい場合はLevel. Dに属する店舗(ここでは仮に△△カラオケ店とします)で使用しているのに、Level. Bに属する店舗(ここでは仮に東京ディズニーランドとします)では使用していないのですから、「◯◯カードはディズニーランドで使用するとポイント◯倍」とか、「◯◯カードをディズニーランドで使用すると、△△カラオケ店のクーポン券贈呈」などの施策が考えられますね。
また、①に属するユーザーの購買傾向分析から、将来③に移行する確率が高い因子を持つユーザー④を発見し、先行して囲い込む施策を打つこともあります。
ある大手クレジットカード会社ではこのような施策を実施することで、数年でアクティブユーザーあたり使用金額が30%増加し、全体の商流は55%増えたそうです。
まとめ
前々回のコラムhttps://bdm.dga.co.jp/?p=4339 は、「商品DNA」というテーマでお話をしました。この「商品DNA」は商品マスターへのタグ付けでしたが、今回のお話は顧客マスターへのタグ付けという内容です。
ビッグデータからコンテキストを見いだし、価値を生むタグを創作するという点で類似していますが、タグ付けの対象が異なるため、違った視点でビッグデータ分析を活用しているとも言えます。
実例では、セグメントの工夫(=属性の創作)が膨大な商流の増加(価値)を生みました。ビッグデータ分析においても、創り出す力が価値を生むのですね。
<協力者ご紹介>
株式会社ギックス http://www.gixo.jp/
代表取締役CEO
1998年、慶應義塾大学理工学部卒業。大学時代より6年間クリケットの日本代表として活躍。
アジア大会出場を事前に許可してもらえたことによりCSK(現SCSK)に就職。その後、アクセンチュアと日本IBMにてコンサルティングに従事。2013年に株式会社ギックスを設立。
最近、体脂肪を落としたところ、頬がこけてきた事を気にして体重を増やしているらしい?(笑)2児の父。
※詳しくは http://www.gixo.jp/members を参照ください。
【執筆者情報】
杉浦 治(すぎうらおさむ)
株式会社 学びラボ 代表取締役
一般財団法人ネットショップ能力認定機構 理事
株式会社 AppGT 顧問
2002年デジタルハリウッド株式会社取締役に就任。IT業界における経営スペシャリスト育成やネット事業者向け研修開発を行う。
2010年4月「ネットショップ能力認定機構」設立。ネットショップ運営能力を測る「ネットショップ検定」を主催。
2013年7月、プレステージ・インターナショナル(東証一部)より出資を受けて(株)AppGTを設立。コンタクトセンターに蓄積された顧客コミュニ ケーションデータを分析し、今後の主要な顧客接点となるスマートフォンの活用において、様々な研究や企画提案を行っている。