2017/07/06

■ビッグデータ活用が加速する2015年と、その後に起こりうる未来とは
ビッグデータ元年と呼ばれた2014年が終わり、2015年が幕を開けました。
ちまたではIoT(Internet of Things)やMA(Marketing Automation)が話題となり、大手企業を中心に導入事例・成功事例が増えつつあります。
今後は、さらに多くの企業が成功をつかむためにビッグデータを活用していくことになるでしょう。企業が勝ち残っていくためには、必要な選択となると考えられます。実際弊社(株式会社チェンジ)にも、2015年に向けてビッグデータ活用に関する相談がかなり増えてきています。この流れは当面止まることがないでしょう。
では多くの企業が、市場競争で勝ち残るためにビッグデータ活用を始め、ビッグデータが当たり前になると何が起きるでしょうか?
ビッグデータ活用が進むと、顧客から見れば最適なリコメンドにより本当にほしい物をより安くおすすめされ、迷わず買うことができるようになります。そして、企業からみれば、やみくもに仕入れを増やしたり安売りしたりすることで市場のパイを奪うのではなく、ある程度計画的にシェアを取り、無駄を減らすことが可能になるでしょう。
しかし、ビッグデータの普及は必ずしも市場の拡大につながるとはいえません。消費者の財布が緩むというわけではなく、場合によっては、あくまで限られた消費のパイを奪い合うことになってしまう可能性も残っています。
結局、限られた市場の中で少しでもシェアを上げたいと考えだすと、ビッグデータの示す行動を超えた安売りや販促を行う企業が出てくるのかもしれません。
■ビッグデータの見えざる手?
一度そうやって企業間で競争が始まると、価格競争となって、顧客にとっては短期的に幸せな状況になるものの、企業側はこれまで以上に厳しい競争を迫られるようになります。
時に、利益が出ないような勝負を競合から迫られることも考えられます。もちろん、実際はビッグデータが、「これ以上値段を下げるともうけられなくなりますよ!」と売り手側に情報を出しますので、冷静に判断すればそのような価格競争には乗らないでしょうが、売れなければ話にならないといってこの勝負に乗ってしまうと共倒れになってしまいます。
そこで、競争回避のために、価格勝負を諦めると、競合側もこんな厳しい競争を続けられるわけではないので、結局元の価格に戻し、実は最適な価格、すなわちビッグデータが算出した価格に着地するのではないでしょうか。
このように、ビッグデータが顧客と売り手にとって最適な市場における価格を割り出し、それが販売価格となる。すなわち、ビッグデータの見えざる手が、市場価格を形成するようになるといえるでしょう。
ビッグデータを活用する社会とは、競争が発生しない、お互いの信頼をベースとした協調社会において、極めて効率的に最適な情報を提供してくれるものの、信頼がなく相互に競争の動きがでてくると、得られるはずだった最適な状態からも遠ざかってしまいます。
■ソーシャル・キャピタルという考え方
競争ではなく協調を進めるという意味では、ソーシャル・キャピタルという言葉があります。人々の協調行動により、効率を高められるという考え方です。
「経済的自由主義」という考え方では、人々の行動は自由意思にもとづいており、その結果、自由競争が発生するものの、『神の見えざる手』により均衡が保たれるというものでした。しかし実際には、その均衡が保たれない状況も多数存在しているのが現状です。
そして、なにより、経済優先で進んだ現在の社会は、解決すべき多くの社会問題を生み出したことも事実です。
そこで、協調行動の考え方が根付けば、経済的にも社会的にも効率性を高めることができ、社会問題の解決にもつながりうるでしょう。
無駄なものを作らない社会。環境に配慮した社会。無理に競争して疲弊しない社会。それが幸せかどうか、目指すべき社会かどうかはここでは議論しませんが、そういう社会の実現には「協調」が不可欠であり、そして、情報の交換、すなわちビッグデータ活用が鍵になります。
言い換えると、ビッグデータの活用がこれから大きな成功を生み出せるかどうかは、「協調」が前提になるといえるでしょう。
■個人にまつわる情報の流通とマイナンバー制度
さて、ここまでに書いた『最適な購買行動や価格がおすすめされる社会』では、各個人に関する全てのライフログ、購買データなどが管理され、活用されています。そこで、必ず議論になるのが個人にまつわる情報です。
現状、個人情報は保有する組織が厳重に管理し、その漏洩は基本的に許されるものではありません。
一方で、個人情報ではなく個人にまつわる情報、例えば個人を特定しない購買行動情報などは、既にコンビニやファミレスのTポイント活用事例にもあるように、匿名化することでその流通・活用を実現しつつあります。
そもそも個人情報の漏洩や悪用は、特定企業が競合企業との競争を有利にするために行われるものであり、ここでも競争が前提となっていると考えられます。
競争を前提としない協調する社会では、個人情報に関しても、必要かつプライバシーが担保される範囲での流通が許容されるようになり、その活用は「気持ち悪い」ものではなく「ここちよい」ものとなるはずです。
日本では、マイナンバー制度、正式名称「社会保障・税番号制度」が始まり、2015年のうちに通知され、2016年1月より利用となっています。
「社会保障・税番号制度HP」
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/
名前が示す通り、主に社会保障や納税などで活用されるほか、身分証明書としても利用できるようになるそうですが、マイナンバーの最大の特徴は、個人情報は一元管理ではなく分散管理を主体とするという個人情報の管理方法にあります。
つまり個人情報が流通することはなく、マイナンバーという個人を特定するIDで必要に応じて個人にまつわる情報を照会可能にするという実現方法で、Tポイント活用などとも近い考え方ともいえるでしょう。
管理を一元化することで融通が利きにくかったこれまでの考え方を払拭し、利便性を重視しつつ、必要な範囲のみ一元管理を可能にした制度といえます。
もちろんセキュリティ面では分散管理のリスクは残ります。しかし、各管理主体の努力とお互いの協力によって、社会保障や適切な納税が実現できるという意味では、協調を前提とした制度とも考えられます。
■まとめ:いつ競争から協調に切り替わるか?
最初にも書いたとおり、2015年はビッグデータ活用が加速する一年になりそうです。その中で、企業や個人という範囲での個々の利益のための競争にとどまった活用となるのか、その枠を超え個人・企業間の協調により、社会や環境に対する効果がうみだせるようになるのかを見届け、本誌ビッグデータマガジンで読者の皆さまにお届けしていきたいと考えています。
■最後に:ビッグデータマガジンのFacebookページ「いいね」が10,000を突破!
いつも読んでくださっている皆さま。本当にありがとうございます。
2013年7月の創刊から1年半、目標にしていたFacebookページの「いいね」が10,000を達成できました。本当にありがとうございます。
これまでに取材や記事提供に協力いただいた皆さま、そしてビッグデータマガジンの運営メンバーに感謝し、皆さまにさらにご満足いただける情報を提供してまいります。
今後共よろしくお願い申し上げます。
<プロフィール>
株式会社チェンジ 取締役
ビッグデータマガジン 編集長
大学・大学院で、経営工学や集団意思決定支援を専攻。
卒業後、大手外資系コンサルティングファームに入社。業務システム開発、Webシステム開発、マーケティングROI分析など多方面に渡るITコンサルティングに従事。
現在は、株式会社チェンジの取締役としてIT企業の人材育成に携わりつつ、データサイエンティスト育成事業や、データ解析コンサルティングを手掛ける。