2017/07/06

こんにちは、杉浦です。本連載のテーマは「AI(人工知能)×マーケティング」です。事例を挙げてAIのビジネス活用について解説します。第1回は「レコメンデーション・エンジンの高度化事例」をご紹介します。
<はじめに>
この連載では、ビッグデータ活用環境の進展によって新たに実用可能になった、人間の知性に近づこうとしているビジネス活用事例を取り上げ、非エンジニアむけに易しく解説してまいります。この分野の専門家であるAI TOKYO LAB(エーアイ・トウキョウ・ラボ株式会社)さまにご協力いただきます。
(解説して下さっているAI TOKYO LAB代表の井原さん)
レコメンデーション・エンジンは、EC最大手のアマゾンが活用し、売上を増やしたことで一般に知られるようになりましたね。アマゾンのサイトを訪れたユーザーが、カテゴリやサイト内検索で、「これだっ!」といった商品が見つけられない時に、「こんな商品をお探しですか?」と、ユーザーの商品探しを手伝ったり、購入後の画面で“ついで買い商品”を勧めたりするときに使われています。
(顧客の課題とレコメンデーション・エンジンの役割)
このレコメンデーション・エンジンの課題ですが、おすすめ情報がどうしても(コンバージョンしやすい)「売れ筋商品」に集中する傾向があり、、、
在庫が単品のビジネスでは活用しづらかったそうです。たとえば人材と仕事のマッチングとか、不動産の売買などが該当します。人気の仕事や物件に応募が集中してしまい、満足度も売上も最大化しないのです。
そこで、これらの業界ではどうしていたのか?というと、こういったエンジンを使用せずに、「気が利く人」が大量の在庫情報の中からユーザーに合う情報を探し出していたのです。すなわち「有能な人材による長時間作業」という人力だったのです。
<③AI TOKYO LABは、どうやってエンジンを「気が利く人」に育てたのか?>
人材紹介会社の「気が利く人」とは、“求人をしている会社を幅広く知っていて、それぞれの職場環境や入社後の期待値なども理解した上で、求職者の人生を慮り、何とか『良い仕事』を見つけてあげよう!と、すべての求人情報を洗い直したり、すべての求職者と綿密に面談したりする努力を惜しまない人”のことです。
このような「気が利く人」に近づけるため、AI TOKYO LABは従来のレコメンデーション・エンジンに、「制約条件」を満たした上で「目標」を達する “線形計画法”による演算を追加したのです。
線形計画法とは、制約条件下で目的(総金額の最大化など)を実現するための方法論を導き出す手法です。下記の例では、どんな組み合わせで貴金属を袋に詰めた場合に総額が最大化するか?を求めています。
線形計画法の演算は、データ処理量が極めて大きく、コンピューターにとって非常に重い作業です。もしも5年前に同じことをしようとしたら、スーパーコンピューター以外の一般的な高性能サーバー程度では、計算が止まってしまっていたレベルだということです。
近年はハードウエアの性能アップとコストダウンが同時にかつ継続的におこっていて、またビッグデータを処理する基盤が安価で普及したため、このようなエンジンの実装ができたということです。
国内有数の大手人材会社に求職者サポートをしている部署があります。この会社では求職者の満足度調査を継続して実施していて、満足度の総和を最大化することがこの部署のミッションです。求人会社数や求職者数は非公開と言うことですが、国内の年間転職者数が約300万人ということですから、人と仕事の組み合わせ数を考えるとかなりの情報量だということが分かります。
この部署では、もともと40名のスタッフが求職者支援に携わっていたそうですが、いまは3名+AI(最適化レコメンデーション)という体制で運営しています。当然ながら“満足度の総和”は、順調に上がっているという事です。
今回のAI活用事例では、37人分の「気が利く人」の業務をAIに替えることができたようです。素晴らしい成果ですね。AIに「匠」の仕事をさせるためには、どんな学習ロジックを適用して、どうチューニングするか?がカギになります。
ちなみに今回の事例では、残った3名をゼロすることは将来も厳しそうでした。この「最適化レコメンデーション」を活用しても、臨機応変な変数の設定や示された情報を使った求職者とのコミュニケーションという仕事が残るため、まだまだ人の力が必要とのことです。
AIって、人の仕事を代替するって思われている節もありますが、現実には人間とAIは手を携えて仕事をしていくことになりそうですね。
<協力者のご紹介>
AI TOKYO LAB & Co.
(エーアイ・トウキョウ・ラボ株式会社)
代表取締役 井原 渉
澪標アナリティクス株式会社 代表取締役
国立九州工業大学非常勤講師
大学在学中に外資系経営コンサルティング会社(日本法人)設立
史上最年少(当時)でプライバシーマーク審査員補資格取得
老舗中堅ゲーム会社にて分析部門の立上げにリーダーとして参画し、
離脱防止、課金促進、広告効果測定などのデータマイニング、分析体制構築を担当。
同時に大学の研究センターにおいてアクセスログに関するデータマイニングを研究。
その後、東証1部上場企業にてシニアコンサルタントとして
通信事業会社のゲームプラットフォーム等のデータ分析・KPI設定・分析用IT基盤構築の
コンサルティング部門を立上げ、主にコンサルティングや教育研修に従事。
現在、自動車や広告業、ゲーム、動画などの分析コンサルティング業務に従事。
※講演実績
九州工業大学、関西大学、AWSソリューションDAYS、オンラインゲームカンファレンス、人工知能学会共同研究会、吹田市公益活動センター等多数