2017/07/06

ビッグデータ業界のキーパーソンにお話をうかがう「ビッグデータマガジン・インタビュー」。多種多様なデータベースに対応しており、経営の可視化、ダッシュボード作成が可能なBIツール「Tableau Software」。
今回は、Tableauの日本法人の立ち上げに尽力し、ご自身もエバンジェリストとして多方面に活躍されているTableau Japan株式会社 並木正之さまにお話をうかがいました。
―――まずは自己紹介をお願いします。
並木正之さま
Tableau Japan株式会社
セールスコンサルタントマネージャー
ITとの出会いはバージニア州の高校に留学していたときで、その高校では当時すでにコンピュータサイエンスの授業があり、DEC PDP11とPC88を使ってプログラミングやネットワークを学びました。さらにApple Lisa(1983年にアップルコンピュータが製造・販売したオフィス向けPC)にふれて衝撃を受けました。プログラミング上でしか見られなかったデータが「ファイル」や「ゴミ箱」などのメタファーで表現されたGUIで可視化されており、それまでのコンピュータとはまったく別物に見えたのです。ITに進みたいと思うきっかけになった出来事でした。
その後、1989年に当時の日本鋼管の情報子会社に入社して、C言語や「PL/I」を学びました。そこでは商品開発部に所属していたので、主に金融向け・製造業向け・食品加工向けのパッケージアプリケーションの開発に関わってきました。
当時はオープン・プラットフォーム化の時代が始まったころだったので、UNIXやRDBMSの分厚い英語マニュアルを片っ端から読み込んで、手探りではあるものの、全て自分で作り上げることができたのでラッキーでした。
また当時、日本国内でパブリックネットの実証実験「WIDEプロジェクト」が産学連携で行われていましたが、このプロジェクトに日本鋼管が参画していたため、まだインターネットが無かった時代にオープンなネットワーク環境を構築・利用することができました。
この経験から、これからは情報があふれる時代がやってきて、情報の利用技術(パッケージ)が重要になると考えました。そこで、ご縁もあってSAPに入社しました。
SAPではドイツの開発部門に3年ほど勤務し、日本に戻ってきたのは90年代の終わりごろでした。以降はEMC、IBM、インフォマティカなどの企業で、技術本部長、製品マーケティング、製品管理、コンサルティング、プリセールスなどを歴任してきました。
この20数年を振り返ると、情報を「作る」側と「利用する」側の両方に関わってきたと思います。
Tableauとの出会いは2012年の夏で、ちょうど日本に進出してくるときでした。Tableauは日本市場への進出にあたり、製品やマニュアル、ウェブページの日本語化をすでに先行して行っており、満を持して日本法人を設立するために立ち上げメンバーを探していたのです。当然、プレッシャーも大きかったです。
日本法人立ち上げの際、カントリーマネージャーの浜田とともに、創業者のひとりであるChristian Chabot氏から直接、Tableauとはどういった会社なのか、どうやって日本に進出し、日本では何がしたいのかをたっぷり聞くことができました。
そこで理解したのは、Tableauはそれまで自分が知っていた業務アプリケーションを開発して販売する会社とは製品や販売モデル、目指すものすべてにおいて全く別物であるということでした。とても衝撃的であり、あらためて情報活用とTableauの意義について深く考えるきっかけになりました。
現在、社員は12名になりましたが、全員がTableauのDNAを大事にして、自分の言葉でそれを語れるのは、このような経緯があったからです。採用基準としても、TableauのDNAに共感できるかは重要な要件になっています。
―――御社のサービスについて教えてください。
Tableauについて話すとき、まずビジネス・インテリジェンス(BI)とは何か?について話したほうが良いと思います。
BIと聞くと、いまだに次のような認識の人が多いことに驚きます。
「難しそう」「どうやって情報を見るの?」「本当に役に立つの?」「分析の専門家用ですよね?」「だれでもできることなの?」「ビッグデータと関係があるの?」「財務や企画、マーケティング部門要で自分たちの業務とは関係ないでしょ?」・・・
スマートフォンやタブレットのように高度なIT製品を日常的に使いこなしている人が、BIと言ったとたんに「難しい」と感じるのはなぜなのでしょうか?
BIについて調べていくと、Wikipedia(英語版)には次のような記述があります。
Business intelligence (BI) is a set of theories, methodologies, architectures, and technologies that transform raw data into meaningful and useful information for business purposes.
ここでは、ITという言葉は1つも出てきません。データからビジネスに役立つ情報を引き出す行為がBIであると定義されています。これはintelligenceという言葉そのものであり、intelligence≒発見と読みかえることができます。
弊社のCEOであるChristian Chabotが昨年のユーザカンファレンスで行った講演で、偉大な発見を成し得た歴史上の人物たちに共通する、4つの行動特性について言及しています。
Feel(直感を大事にする)
Chase(深く掘り下げる)
Shift(視点を変える)
Relate(関連付ける)
「隠された原理を見つけたい」「もっと深く真理を探求したい」といった思いを実現するために、先人たちは自分の直感を信じ、執念を持ってデータから情報を掘り出し、ときには視点を変え、糸を紡ぐようにいくつもの情報を関連付けていくことで、小さな気付きから独創的な着想へと昇華させ、やがて偉大な発見に結びつけていきました。
この発見にいたる知的行動をビジネスの目的で行うことがビジネス・インテリジェンスなのです。
この知的行動を支えて加速させるための優れたツールとしてITが重要になります。
ITには本来「プロセス・オートメーション(省力化)」と「情報を活用する」という2つの目的がありますが、今日の企業におけるITの役割は前者に偏っています。高価で複雑なITシステムは、専門家によって適用業務に合うよう時間をかけてプログラムされ実装されます。出来上がったITシステムは業務の円滑化や合理化を行う設備として扱われ、業務の仕組みが変わる際にそれに合わせて変更されていきます。それはまるで生産ラインの変更に応じて配置が変わるベルトコンベアと同じ位置付けです。
変化が少ない業務であれば問題は無いのですが、ビジネス・インテリジェンスすなわち知的行動を支えるという視点で見ると正反対の仕組みであることがわかります。専門家がプログラムを作って、それを実装するという手続き型のITシステムでは、人間が思考するスピードにまったく追いつけないからです。導入のための要件を定義し、カスタマイズして導入する。新しい帳票が欲しければ、その開発に数週間を要する・・・このような手続き型のITに頼っていては、発見を生み出す行動特性を支援することはできません。
スティーブ・ジョブズはWebが生まれる前の1990年に、「Computers are like a Bicycle for Our Minds」と表現しましたが、人間の発想を伸ばす優れたツールとしてのITが必要なのです。
Tableauは、いわゆる手続き型のクラシックなBIツールとして誕生したものではありません。象徴的な例として、TableauではVizQLという独自のデータベース視覚化言語を開発しています。VizQLの仕組みはSQLに似ていますが、SQLがデータをテキスト化したように、VizQLはデータを視覚化します。Tableauにおけるドラッグ&ドロップ操作は全てVizQLに基づいた操作となり、ユーザーは視覚化されたデータに触っているかのような感覚でデータを扱えるのです。iPadなどを使ってTableauを操作すると、そのことをより実感できるでしょう。
グラフの形状を変えた瞬間に、1億件を超えるようなデータでも、瞬時に最適な分布・形状・色あいで出力されます(Feel/Shift)。そこで気になる点があれば、グラフ上からすぐに詳細なデータへドリルダウンができます(Chase)。
最新バージョンである8.2ではRelate(データを関連付ける)の機能が強化されており、さまざまなデータをつなげる・加工する・統合すること、気づいたことをデータを使って論理立てて説明することが容易にできるようになります。
Feel・Chase・Shift・Relateが絶え間なく連携し、考えるのと同じ速度で仮説検証を繰り返すことができる。その結果、皆が「I know(そんなことは分かっているよ)」と思っている先を発見できる。
ユーザーがTableauに期待している価値は、このようなことだと思います。
また、これは事例ではありませんが、ユーザーとの関わり方がTableauらしさを表しているのでご紹介します。
Tableauのユーザー規模は全世界で17000社、日本でも300社を超えていますが、ユーザーコミュニティをとても大切にしています。日本でも1/31にTableauユーザーグループ会議が初めて開催されました。
当日は雨にも関わらず、90名以上のユーザーが参加され盛況でした。弊社から何かをプレゼンするのではなく、お酒を飲みながら、ユーザー同士がTableauをどのように活用しているのかを共有し合ったり、製品に触れたりする場です。参加者からは「こんなふうにお酒を飲みながらITの話をするのは初めてだ」という声が上がっていました。
Tableauはソリューションではなく優れた道具なので、例えばアウトドアの達人がどうやってアウトドアグッズを使いこなしているかを知りたくなるように、実際に使ってみたユーザーが、自分の使い方について話したい、もっとほかの使い方も見てみたいと思うのです。
―――人材に関して、課題だと感じることをお聞かせください。
情報を高度に分析・活用できる人材が世界的に枯渇していると言われていますが、国別にそのような人材の多さを比較すると、1位はアメリカになります。アジアでは中国・インドなどが上位に食い込んできますが、日本はぐっと下がってブラジルよりも下になります。日本における理系の人材不足はかなり前から問題になっていましたが、ビッグデータの時代になって、この問題はより深刻になっています。
Tableauには「Tableau for Teacher/ Tableau for Student」というプログラムがあり、世界中の高等教育機関でTableauを無償で使ってもらっています。すでに慶應義塾大学、立教大学、多摩大学では導入されていますが、統計の学習や研究成果をまとめる際に利用していただき、データに触れる機会を生み出すことに貢献しています。
全ての人がデータに触れて、何かの役に立たせる。インフォメーション・ワーカーと言っても良いですが、その人たちに優れたツールを提供して、データからさまざまな価値や発見を生みだすお手伝いをする。それこそがTableauの存在意義です。
他にも「Help people」(公共の利益に資する)のために、Tableau Publicという取り組みがあります。いわゆるオープンデータの分析を共有する場で、データ分析を使って社会性の高いメッセージ(環境、出生率、就職など)を誰もが無償で発信できます。
Tableau Publicに載せられたデータは弊社がホスティングできますので、例えばサッカーのワールドカップの際、今年は誰がバロンドールになるか?という分析をESPN.com(アメリカのスポーツ専門チャンネル)のサイトに表示できます。Tableauによるリアルタイムでの分析が、動的なビジュアルで表示されるのです。メディアとデータの連携であり、これも無償で提供されています。
――― 最後に、ビッグデータマガジンの読者の皆さまに、メッセージをいただけますか。
現在、情報(ビッグデータ)から価値を生み出す人材が求められていることは間違いありません。これは、全ての人にとって、ものすごいチャンスです。
データを活用することは、データサイエンティストと呼ばれる一握りの専門家だけが持つスキルではありません。
もちろん、最先端の技術を持つ専門家は必要ですし、今後も増えていきますが、一方で、統計とITの知識は広く・浅くでも、データを活用できる人、データを使って考え、会話できる人たちが増えてくると考えています。
弊社の創業者Pat Hanrahan博士は「Data Enthusiast(データに熱狂している人)」と呼んでいますが、このような人が増えていくことが重要だと言っています。
ビッグデータマガジンの読者の皆さまには、自分は専門家ではないから、統計なんて知らないからデータ活用はできない、などと思わないでほしいのです。Tableauを使えば、今お持ちであるドメインの知識が、データを使って伸ばすことができるのです。
Tableau Publicのような無償のサービスもありますので、とにかくまずは一度ダウンロードして触っていただき、良さを実感していただければ幸いです。