2017/07/06

ビッグデータ業界のキーパーソンにお話をうかがう「ビッグデータマガジン・インタビュー」。
多岐にわたる黒物家電(PC、テレビ、デジカメなど主に娯楽向けの情報家電の総称)の販売実績データをもとに、消費者に向けて旬な商品情報をランキング形式で発信する情報誌「BCNランキング」。
そこで蓄積された膨大なデータをもとに、マーケティング支援のサービスを提供する「BCN総研」でエグゼクティブアナリストを務める、株式会社BCN 道越一郎さまにお話をうかがいました。
―――まずは自己紹介をお願いします。

株式会社BCN
BCN総研
エグゼクティブアナリスト
道越一郎さま
もともと日本リサーチセンターという市場調査の会社の出身で、およそ13年間勤めていました。当時は「マーケティング研究本部」という組織に所属して、市場調査の結果からアウトプットを媒体として発信するような業務を担当していました。
原稿のやり取りはまだ紙ベースの時代で、ファックスが主な入稿手段でしたが、私はデータ通信に興味があったため、ライターさんたちと協力して媒体原稿のデータ入稿をゲリラ的に進めたりしていました。
調査そのものについても、当時としてはまだ珍しかったインターネットでのパネル調査(インターネット上でアンケートに答えてくれる会員を組織して、そこで調査を行う手法)を行う「サイバーパネル」企画して、いわゆるインターネット調査の事業を複数の同僚と立ち上げました。
同じ時期には、Webサイトの視聴率調査の立ち上げとその後の運営にも参画しました。当時はサイト数も少なかったので、どのサイトがどの程度閲覧されているのかは大きな関心事でした。協力してくれるユーザー(パネル)のPCに特殊なモジュールを組み込んで、どのサイトを見ているかをサーバーにどんどん飛ばしてもらい、そのデータを集計してサイト比較の分析をしていました。
その後、日本リサーチセンターからBCN社へ移って行った先輩のすすめで、BCN社に入社することになりました。
BCN社に入社後は、コンシューマー向けに黒物家電の売上ランキングの情報を提供する「BCNランキング」の立ち上げと情報発信を担当してきましたが、徐々にもともとの強みでもあるデータ分析をやったらどうか?という話もあり、アナリストとして活動するようになりました。現在は、社内に蓄積されているPOSデータを解析する責任者を務めています。データ分析をもとにした情報発信(プレスリリースやプレス発表会)による弊社サービスのプレゼンス向上や、デジタル家電業界全体の活性化などをミッションとしています。
具体的には、デジタル情報家電の業界で今何が起こっているか、定期的に情報発信していくことがメインの業務になります。
―――御社のサービスについて教えてください。
一般によく見かける売れ筋ランキングですと、売りたいものを上位にもってくる恣意的なものも多いとききます。しかし、弊社の「BCNランキング」は全くそういうことは無く、実売データに基づき、本当に売れている商品順にランキングされているのが最大の特徴です。以前は、このサービスをご紹介すると「本当に売れているランキング情報なんて、あるんですね!」と驚かれたりもしました。おかげさまで現在では「黒物家電の販売データを見たいなら、BCNに行けばほぼ何でも分かるよ」というくらいに認知が拡がっていることを実感しております。
この販売データですが、提携している販売店から毎朝、前日の販売データお送りいただいております。それを集計して、夕方ころには前日の集計結果が見られる状態にします。現在、提携している販売店は22社・約2400店舗にまで増えていますので、データ料としては相当なボリュームになります。
ちなみに、販売データは伝票ベースでの情報ではなく、販売店ごとに要約されたデータになっています。具体的にはJANコードに紐づく販売実績の集計値(前日、商品●●が何台売れたか)で、ビッグデータと呼ぶにはやや規模が小さいかも知れません。また、販売実績だけしか頂戴しておりませんので、各製品のスペックについては弊社にて調査して補足し、マーケティングの現場で使えるデータに加工しております。
データは全国の店舗から送られてくるので、日本の黒物家電の販売に関する全体的な傾向を把握することができるわけです。このデータを閲覧できるweb上のツールを提供しており、EXCELのピボットテーブルのように自由に集計することが出来ます。
蓄積された販売データは、お客様が利用できるように加工して販売しておりますが、販売店や店舗が識別できるようなデータにはなっておりません。弊社では、個社・個店の情報は一切開示しないというポリシーでデータビジネスを行っております。
―――ユーザー事例を教えてください。
たとえば、以下のような業界でご利用いただくことが多いです。
- IT/デジタル家電メーカー
⇒競合他社の動向や価格の比較分析、新製品開発時のスペック動向調査 - 証券会社(アナリスト)
⇒日々の価格・売り上げ動向を見ることで経営の内情を推測 - 部材メーカー(テレビの部材など)
⇒カテゴリー別の売上動向。市場の伸びの予測など - 広告代理店(広告効果の確認など)
⇒TVCMの投資対効果、競合他社との比較
テレビのメタデータ(放映時間、出演者、番組内容などを文字化したデータ)と組み合わせて分析されるケースもあります。例えば「家電芸人の●●さんがキャノンの▲▲というカメラを良いと言っていたら、実際に売れた」といったような芸能人の影響力を、実売データから確認することもできるわけです。
世の中にはインターネットの掲示板やSNSの書き込み内容を分析したり、webページのアクセス状況を解析するようなサービスがありますが、それはそれで意味があるものの、最終的には売上との関連が重要になってきます。弊社のデータは様々なコンテンツと売上の関係が見られるという意味でも、有効だと思います。
そのほかにも、弊社のデータと組み合わせて、何か新しいサービスができないか?という引き合いをたくさんいただきます。現在、弊社の実売データを分析して付加価値の高いサービスを生み出そうと試行錯誤しております。ニーズが多いのは未来予測のような使い方ですが、不確定要素が多いため、予測の精度を上げることが難しい状況です。
この辺は、ビッグデータにも共通する課題だと思います。ビッグデータらしく、全ての変数を考慮した予測モデルを作ってみるのも1つの打ち手だと思いますが、技術的な面も含めて、今後解決していきたい課題でもあります。
ベースとなるデータを持っているのが弊社の強みなので、今後はこうした高付加価値なコンサルティングサービスの提供も検討しております。
―――人材に関して、課題だと感じることをお聞かせください。
ビッグデータと言うと、巨大なデータをシステムに投入すれば、それで勝手に何か結果が出てくると思われがちですが、そんなことはありません。データを読むのはあくまでも人間です。さらに、データを読むためには、それなりの見識というか、データを読むための“土地勘”が必要になります。これが難しい。
例えば2012年秋から製品価格が全体的にジリジリと上昇するようになりました。為替レートが急激に円安に振れると同時に日経平均が急速に戻ったことを背景に、デフレからインフレにスイッチしたわけです。デジタル家電という狭いカテゴリーの中から見ても、アベノミクスの効果が数字に表れているのが見えるわけです。そういった関連性を常に把握している必要があります。
売上のデータを継続的に見ていると、その動向から世の中の動きが見えてくるのです。変化に着目する、と言っても良いかも知れません。データ処理・分析の専門知識だけでなく、社会人としてのベースというものがあって、初めて“着眼点”が生まれます。ビジネスに対する造詣の深さと社会的な背景への理解が根底にあって、初めてデータから示唆が出せるものだと思っています。
お客様と同じくらいのベース(業界に対する理解)が無いと対等に話ができない一方で、第三者としての視点も重要です。「それはどうやって勉強すれば良いのですか?」と言われても体系的に身に着ける方法はあまりなく、様々な情報に触れて、日常的にアンテナを研ぎ澄ましていくしかないわけです。
他に基本的な事で言えば「必ず一次情報にあたれ」と言っています。情報の発信源に直接確認することが非常に大事です。データを扱う者としては、メディアの報道や、伝聞情報を鵜呑みにするのではなく、集計表の下に小さく書かれているようなデータの素性を確認しろ、ということです。
また、現場の空気に触れることも大事です。現場に行けば、文字に出来ない「気」というか「オーラ」みたいなものが必ずあるので、それを見たうえでデータにあたることも非常に重要だと思います。
――― 最後に、ビッグデータマガジンの読者の皆さまに、メッセージをいただけますか。
個人が自由にデータを解析して、それを共通言語として話せるような世の中になると楽しくなると思います。
BCNマーケティングにはお試しサイトもあるので、ぜひ一度、我々のサービスに触れていただければ幸いです。