2017/07/06

ビッグデータ業界のキーパーソンにお話をうかがう「ビッグデータマガジン・インタビュー」。ポータルサイトの運営を通じて蓄積されたデータセンターおよびネットワーク運用ノウハウを、クライアント視点のトータルサービスとして提供する 株式会社データホテルの白倉章照さま、岩渕昇さまにお話をうかがいました。
株式会社データホテルは、ポータルサイト“livedoor”の成長を支えたインターネットインフラのマネジメント経験から生まれた「フルマネージドホスティング」や、長距離の大容量伝送を快適にする「CLOUD CONNECT」などを提供されています。
※2014年11月 株式会社データホテルはテコラス株式会社に商号変更されました
https://techorus.com/
―――自己紹介をお願いします。
白倉 章照さま
・ビルディングオートメーションシステム構築企業、ISPの CS 企画企業を経て、2006年 1月に株式会社データホテル(旧:株式会社ライブドア)ご入社。
・公衆無線LANサービスやクラウド間高速データ伝送サービス「CLOUD CONNECT」、教育機関向けクラウドサービスの企画・運営にご従事。
学生時代は建築設計や通信技術を学びました。インターネットインフラ構築の必要性が増している時代でしたので、新卒で就職した会社では高層ビル建設における空調や熱源の自動制御システムに必要な通信設備を構築する業務をこなしていました。このような経緯で通信自体に興味を持つようになり、その後の転職では、ISPサービスのCS業務なども経験しました。
2006年に当時のライブドア(現データホテル)に入社したのですが、当日スタートしたばかりの公衆無線LANサービスのCS企画から始まり、新サービスの企画や運営管理など本格的に通信事業全般に取り組むようになりました。こうして蓄積された経験やノウハウが、現在の私の仕事を支えています。
岩渕昇さま
・公共、エンタープライズ系ネットワーク設計構築、情報システム担当などを経て、2010年11月に株式会社データホテル(旧:株式会社ライブドア)へご入社。
・回線サービスの「BUSINESS CONNECT」、ネットワーク構築、ISP事業などにご従事。
・2013年1月からは「CLOUD CONNECT」のシステム周りの運営管理などをご担当。
私が新卒で就職したのは自動車メーカーでした。しかし、将来性などからキャリアプランを練り直しているうちに「ネットワークのエンジニアになりたい!」という気持ちが強くなり、2000年にIT業界に転職をしました。
専門知識を学んでから転職をしたのではなく、業務を通じてエンジニアとしての専門知識を学びました。ちょうど「e-Japan」という国家戦略が掲げられていた時であり、大手通信会社のスタッフとして“地域のインターネットインフラをブロードバンド化しましょう”といった提案などを行いました。
<株式会社データホテルについて>
株式会社データホテルは、Webサービスを支えるインターネットインフラとして2000年にサービスを開始し、その後、livedoorポータルやlivedoorブログといった、国内最大級のWebサービスの爆発的なトラフィックをさばくことで自社のノウハウを蓄積してきました。
2010年にNHNJapan株式会社(現LINE株式会社)の子会社となり、2012年には、10年以上続いているサービスブランド「データホテル」を社名に変更して新たなステージに立ち、LINEグループの子会社としてBtoBのインターネットインフラ事業に集中することになりました。
このようにユーザーむけのメディアサービスを運営する経験を積んだことで、不動産やハードウエア製造などの事業からスタートしたデータセンター事業者とは異なり、クライアント企業のためになるサービス提供ノウハウを蓄積することができたと思っています。
今後もクラウド市場が順調に伸びていくと思いますが、クラウドサービス事業者とのパートナーシップの強化など、機能を補完するサービス提供を行うことで、クラウドサービスのエコシステムを作っていきたいと考えています。
――― 御社のサービスについて、詳しく教えてください。
<フルマネージドホスティング>
ポータルサイトやブログサイトの運営で得たノウハウ活かして、総合的に提供するサービスが「フルマネージドホスティング」です。単にネットワークやラック、サーバーといった設備をお貸ししたり、依頼された作業のみを実行するということではなく、目的に合わせてミドルウエアを選択したり、チューニングをしたり、障害時にはわれわれ側で対処方法を考えて実行するといったことまで、クライアント企業の目的を達するために必要なことすべてを専門家として提供しています。
<高速データ伝送クラウド「CLOUD CONNECT」>
大容量データを世界中のクラウドサービスやデータセンターに高速転送することや、国外のハイパフォーマンス・コンピューティングリソースの円滑な利用環境を提供するのが「CLOUD CONNECT」です。
世界中を結ぶ仮想の高速ネットワークをSaaS形態で提供しています。SaaS形態ですので、ブラウザからすぐに利用でき、操作も簡単です。
ビッグデータ(大容量データ)時代の到来により、ネットワーク上で扱われるデータが加速度的に増加しているのは周知の事実だと思います。日本国内だけでデータを扱う場合は比較的ネットワーク環境が良いので、あまり意識をしなくても良いかも知れませんが、海外のサーバーとの連携はさまざまな課題に悩まされます。大容量データを伝送しようとすると大変な時間がかかったり、伝送中に通信が途切れて再度最初からやり直しになったりするのです。
このような課題に対し、「CLOUD CONNECT」は高速・安全・効率的に遠隔地へのデータ転送が行えます。TCPプロトコルに比べ伝送速度はおおむね10倍〜30倍になります。2日以上かかっていた作業が2時間で終わるというイメージですね。SIerさまやクラウドのインテグレーターさまには大変喜んでいただいております。
FTP や HTTP、SSH など通信に用いられている多くの TCP プロトコルは、その信頼性の高さゆえに、高速性を犠牲にしています。特に条件の悪い環境においては著しく速度が低下します。
「CLOUD CONNECT」はUDP 上に実装された独自のトランスポート層プロトコルにより、今まで使いきれなかった帯域をフル活用した高速転送を実現するとともに、クラウド(SaaS形態)で、安全かつ確実にファイルを転送します。
<教育機関向けネットワーク運用SaaS「キャンパス4」>
教育機関に特化した「キャンパス4」というクラウドサービスも好評です。教育機関にはネットワーク運用担当者を配置できないケースやITインフラに多額の投資をできないケースが多々有りますので、これらに左右されずに全ての学校で等しく高品質なITインフラを実現できるようなサービスを開発しました。「キャンパス4」の1プランであるクラウド型のWi-Fiマネージメントシステムでは、キャンパス内に無線アクセスポイントを設置するだけで、運用業務不要な無線LANの環境ができあがります。同時に、世界中の学術機関とのローミングができるといったメリットもあります。
――― ユーザー事例を教えてください。
テレビ局系列の映像制作会社様の事例はわかりやすいと思います。日本の映像コンテンツを海外に配信しているのですが、配信サーバーを配信国内におけば良いというだけではありません。字幕スーパーを入れたり、少し音楽をローカライズしたり、さまざまな小さな加工が必要になるのですが、その作業を第三国にアウトソースしているケースもあり、加工途中でデータの国際間受け渡しが何度も起こります。
当社のサービスを知るまではFTPで送信していたようですが、大容量データの伝送には大変な時間がかかっていたのに加え、配信途中のエラーによる最初からの再送信で、現場はかなりのストレスを抱えていました。
そのため、当社サービスの利用により、時間の短縮という定量的な効果に加えて、関係者のストレスが大幅に削減されたことを、大変喜んでいただいています。
またFTPの場合は、通信が途切れると最初から再度データ転送を行う必要が発生します。しかし「CLOUD CONNECT」では、レジューム機能によって、途中で通信が途切れても残りのデータだけを再送する仕組みになっており、担当者さまにかかる負担も大幅に軽減されます。
もうひとつ、企業内データをオンプレミス環境(自社所有のサーバーにデータを保管する環境)で保管する方式から、遠隔地である海外のデータセンター内のクラウド環境で保管する方式に変更した際に採用いただいた事例もあります。その企業さまでは、東日本大震災をきっかけにデータバックアップの仕組みを再検討され、AWSの海外リージョンS3にてデータをバックアップされています。
その時の通信環境によっても変わりますが、インターネットを使用して約80GBのファイルを日本からUS(AWSヴァージニア)間の転送で、2時間半弱で転送完了しているという報告を聞いています。同一のファイルをFTPで転送すると、おおよそ17時間程度かかるので、時間がおおよそ1/6に短縮されたということですね。
―――人材に関して、課題だと感じることをお聞かせください。
白倉 章照さま
私は、新卒エンジニアの採用面接をすることがあるのですが、最近は“クラウドネイティブ”が増えてきたと感じることが多くなりました。AWS上での構築経験はあるけれども、物理的なサーバーを見たことがないとか、触ったことがないなど。
しかし、物理的な理解もしておいた方が良いと思うのです。学校では、すぐに活かせるノウハウを身につけるためにクラウド上でのサーバー構築を実習させるのでしょうが、その実物がどのようなものなのか?どのような物理的な環境で動いているのか?を、知っておいた方が考えの幅が広がると思います。
同様に、当社でネットワーク運用に携わる人材も、自分たちが支えているサービスは、どのようなユーザーに使われ、何に喜ばれており、そのビジネスモデルはどのようなものか?ということを知った上で業務を進めた方が良い仕事ができるのではないかと思っています。
また、目の前の技術やテクニックだけではなく、これから来るビジネス環境、サービス環境、技術動向などにも、興味のアンテナを張っておいてほしいですね。IoT(Internet of Things)、IoE(Internet of Everything)や、クラウドソーシングによる集合知など、様々なビッグデータの波が来そうなことなども、われわれの将来に影響を与えると思うのです。エンジニアであってもそういったビジネスの世界観にも目を向けてほしいです。
データサイエンティストも、統計知識や分析能力だけでは無く、ビジネスや世界観を理解するといった、そのような視点が重要だと思うのです。
岩渕昇さま
これまでのビジネス環境では、ネットワーク上で問題が起こらないよう、スムーズにデータが流れるようにチューニング等さえ行えば、クライアントに価値提供ができているといえました。しかしこれからは当社内のさまざまな部署でも、データを見て解析できる人材が必要になってくると思います。
これまでのシステムログの在り方というのは、何かが起こったとき調査をするために取得しておくことや、システム監査の時に使用するためのデータでした。しかし、これからはシステムログを「分析」して、クライアントにサービス改善の示唆をしたり、自社のサービス開発アイディアに活かしたりする必要があるのです。企画部門や事業戦略部門にそのような人材が必要だともいえますが、エンジニア自身も、そういった視点を持ったほうが、より価値の高いサービスを提供できるようになると思います。
――― 人材育成の課題に対して、どのような対策が有効でしょうか?
白倉 章照さま
私が社内のプロダクト開発でうるさく言っているのは、
「クライアントの成長に役立つか?」
「われわれならでは、というバリューがあるか?」
ということです。普段から、こういった観点を浸透させようとしています。
またエンジニアであっても、新卒研修ではビジネスを理解させるような内容を実施しています。
岩渕昇さま
私自身が意識していることなのですが、エンジニアは、自分たちが提供しているサービスやプロダクトが、お客さまの現場でどう役に立っているのか?どういった数値を出せているのか?をいつも気にするべきだと思います。
ネットワーク屋として、ネットワークの状況を正しく把握して決められた作業をするだけではなく、成果を監視して、どこに重点的にリソースを投入すべきか?などを先読みし、こちらから提言するような姿勢で業務に取り組むのです。
状況把握のためだけに数値を見るのではなく、解析して、成果増大のために提言をするという“姿勢”を身につけることが、課題解決につながるのではないでしょうか。
――― 最後に、ビッグデータマガジンの読者の皆さまむけに、メッセージをいただけますか。
白倉 章照さま
ビッグデータは単なるバズワードではなく実態になると考えています。従って、市場は必ず拡大します。今後の市場機会をつかむポイントは何なのか?を、いつも考え、ビジネス機会を逃さないようにしてください。
岩渕昇さま
ビッグデータという言葉に踊らされたり、流行の技術やツールに惑わされたりすることなく、データが示す本当の意味を追求するという、本質的なことに意識を集中していただきたいと思います。
【インタビュアー】
杉浦 治(すぎうらおさむ)
株式会社 AppGT 取締役
株式会社 学びラボ 代表取締役
一般財団法人ネットショップ能力認定機構 理事
2002年デジタルハリウッド株式会社取締役に就任。IT業界における経営スペシャリスト育成やネット事業者向け研修開発を行う。
2010年4月「ネットショップ能力認定機構」設立。ネットショップ運営能力を測る「ネットショップ検定」を主催。
2013年7月、プレステージ・インターナショナル(東証一部)より出資を受けて(株)AppGTを設立。コンタクトセンターに蓄積された顧客コミュニ ケーションデータを分析し、今後の主要な顧客接点となるスマートフォンの活用において、様々な研究や企画提案を行っている。
~ビッグデータ活用のための「やさしい業界解説」シリーズ ~