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第2回 インターネット広告業界解説~ビッグデータ活用のためのやさしい業界解説シリーズ~

time 2016/02/23

第2回 インターネット広告業界解説~ビッグデータ活用のためのやさしい業界解説シリーズ~

こんにちは、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)ビッグデータ解析部の吉村と申します。本連載の第1回の記事では、インターネット広告に関する技術であるアドテクノロジーでのビッグデータの活用について、インターネット広告業界全体のトレンドと、それを踏まえて当社での活用方法を「基礎属性/趣味/嗜好」「購買に至る可能性」「購買ステージ」の3つに分類してご紹介しました。

(第1回の記事はこちら:https://bdm.dga.co.jp/?p=3452

第2回の本記事では、「基礎属性/趣味/嗜好」「購買に至る可能性」の2つの項目について詳しくご説明します。

■「枠」から「人」へ

企業は利用顧客を想定して商品・サービスの開発を行い、プロモーションを実施します。「広告」はプロモーションの方法のひとつであり、広告を出す際には想定するターゲットにいかに有効的にメッセージを伝えられるかが重要になります。

たとえばターゲットを「働く30代女性」に定めましょう。テレビ広告であれば「働く30代女性」の視聴者の割合が大きい番組、あるいは時間帯を、雑誌であれば「働く30代女性」の購入者の割合が大きい雑誌を選んで広告を掲載することになります。想定ターゲットである「人」に効率よくアプローチするために場所や時間といった広告「枠」を買うのが、テレビ・新聞・雑誌・ラジオの4大マスメディアに代表される従来の、そして今でも主流の広告の買い方です。

これに対してインターネット広告は前回の記事でご紹介したように、日本では2010年頃から始まったRTB((Real-Time Bidding:リアルタイム入札))の仕組みによって、1インプレッション(*1)ごとにそのユーザーがどのようなユーザーであるのかを加味して「買う/買わない」の選択ができるようになりました。つまり、想定ターゲットにアプローチするために間接的に「枠」を買うことしかできなかった広告が、直接「人」にアプローチできるようになった、ということです。「枠」を買っている限り、そこには想定ターゲットではないユーザーも含まれてしまいますが、「人」に直接アプローチできるようになったことで広告予算の無駄が少なくなりました。このようなRTBを含むプログラマティック広告(*2)が、インターネット広告の市場規模拡大につながっていると考えられます。

この流れは『「枠」から「人」へ』(*3) という言葉で表され、インターネット広告の運用におけるキーワードとなっています。

(*1)
インプレッション サイトに訪問者がアクセスしたときに広告が1回表示されること
(*2)
プログラマティック広告 ユーザーデータを活用し、プラットフォームを介した広告枠の自動取引
(*3)
出典:横山 隆治・菅原 健一・楳田 良輝(2012)『DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門』インプレス

 

■「基礎属性/趣味/嗜好」の推定で「人」を可視化する

では、どのように「働く30代女性」であるのかを判断するのでしょうか。

ここで活用するのがビッグデータです。

「働く30代女性」であること(=属性)が判明しているユーザーを「教師データ」としてWeb上の行動履歴と突き合わせることで、その属性の特徴がわかります。属性不明のユーザーの行動が前述の特徴にどの程度近しいのかを計算することで、そのユーザーが「働く30代女性」であるかどうかを確率によって導き出すことができます。

インターネット広告業界解説

上の図では「日中のアクセス量」と「ブログの閲覧数」といった変数を例に挙げていますが、変数の数や種類を増やしたり、アンケートをとって「学習データ」として使える項目を増やしてこのロジックを適用することで、基礎属性や趣味・嗜好も推定できるようになります。

 

■「購買に至る可能性」を推定する

企業がターゲットを定める際によく使われる基礎属性や趣味・嗜好の推定は、商品の認知率を高める、顧客を育成する等、中長期な視点で施策を行うブランディングを目的とした広告出稿の際に、そのわかりやすさと使いやすさの両面で非常に有用なターゲティング手法となります。

一方で「訴求する商品の購入意向が高いユーザー」に広告を配信することで、短期的に売上の増加を目的とする広告出稿も多くあります。

「ある商品をECサイトで買おうかどうか迷ってカートに入れたけれども、結局購入を見合わせ、他のWebサイトを見ていたら迷っていた商品の広告が表示された」経験は多くの方にあるのではないでしょうか。これはリターゲティングという「(ECサイトや広告主のWebサイト等で)その商品を閲覧したことのあるユーザー」に広告を配信するもので、CPA(*4)を低く抑えられる、プログラマティック取引における定番のターゲティング方法です。

CPAを低く抑えられるということは「商品を閲覧したことのあるユーザー」の中には「購入意向が高いユーザー」が多く含まれていることを表していますが、一方「閲覧したことのないユーザー」の中にも「購入意向が高いユーザー」が多くいるはずです。つまり、リターゲティングは「購入意向が高いユーザー」を十分には捉えられないという「量」の問題を抱えているわけです。

インターネット広告業界解説

では、閲覧したことのないユーザーに配信する場合、どのようなユーザーをターゲットとして設定すればよいのでしょうか。性別や年齢等の基本的な属性だけでは十分に説明できるものではない場合がほとんどで、これらの属性だけでは「質」の高いターゲットセグメントを作ることはできません。この「量」と「質」の問題を解決するのが、インターネット広告業界では「オーディエンス拡張」として知られるターゲティング手法です。

商品購入ユーザーの購入直前の行動履歴から、これらのユーザーの行動の特徴を捉えます。商品を閲覧したことのないユーザーの行動を「購入ユーザーの特徴に似ているかどうか」によって下記の図のように色づけし、似ているユーザーを購入意向の高いユーザーとみなして広告配信を行うのがオーディエンス拡張です。

インターネット広告業界解説

オーディエンス拡張によってリターゲティングの「量」と「質」の問題が補完されます。リターゲティングに並び、プログラマティック取引における定番のターゲティング手法のひとつとなっています。

(*4) CPA(Cost Per Acquisition) 顧客獲得一人あたりの広告費用

 

■ビッグデータ活用のために

今回は「基礎属性/趣味/嗜好」と「購買に至る可能性」の2つの活用方法を挙げて、ビッグデータのビジネスへの活用をご紹介しました。どちらの例でも行動傾向を捉えてどのようなユーザーであるのかを推定しています。これを実現するためには、ビッグデータを持っていることに加え、機械学習の力がないと難しいでしょう。

さきほど、性別/年代を「日中のアクセス量」と「ブログの閲覧数」という2つの変数によって推定する例を挙げましたが、実際の分析では数十個から数百個の変数を使うことが頻繁にあります。これだけたくさんの変数をすべて扱うとなるとどれを採用すべきなのか評価が難しくなり、クロス集計等の基礎的な集計だけでは限界があります。これを補う機械学習はビッグデータを活用するための必須スキルと言えます。

更に、機械学習を応用するとなると、ただでさえ運用・管理に膨大なコストのかかるビッグデータの活用にコストが上乗せされるため、環境をいかに整備するかが課題となってきます。最近GoogleやAmazonといったプラットフォーマーがビッグデータの機械学習に対応したサービスを発表し始めています。これらを上手く使うことが求められていくでしょう。

ビッグデータを「いかに商品・サービスに活用するか」、機械学習を使って「どのように分析するか」、新しいサービスを上手く使いつつ「いかに環境を整えるか」、これらがビッグデータ活用のために企業やデータサイエンティストが考えていかなければならない重要な要素となっています。

次回の記事では、3つ目の活用方法である「購買ステージ」についての記事となります。

 

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【執筆企業情報】

DAC

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(URLhttps://www.dac.co.jp/

DACビッグデータ解析部は、データサイエンティストやエンジニアなど多様なバックグラウンドを持つ、データ解析のプロフェッショナルチームです。「ビッグデータを基盤に、広告主・媒体社と生活者のコミュニケーションを豊かにする」をミッションに掲げ、日々取り組んでおります。

 

    

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