2017/07/06

株式会社博報堂プロダクツの塚本です。
オペレーションズ・リサーチ(以降OR)という方法論をご存知でしょうか?ORとは『数学的・統計的モデルやアルゴリズムの利用などによって、さまざまな計画に際して最も効率的になるよう決定する科学的技法』*1、と称される方法論で、データサイエンスにおいてもさまざまな場面における最適化プロセスに利活用されています。
【ORが活用されている場面は多い。あの政治家も学んだ!】
ORは、例えば、空調設備で最適温度にするための空気の流れを造る仕組みや、売れる商品棚割設計、高速道路の渋滞緩和・レジャー施設の待ち行列緩和など、身の回りの日常生活で使われることが多いデータ活用の技法です。この技法の名前は、(第93代)内閣総理大臣である鳩山由紀夫氏の「野球のOR」*2という論文が在ることが2009年10月に報道されて、統計学に関わる人物の多くがその事実を初めて知り一様に驚きの声を上げたことが記憶に新しいです。
前述の鳩山氏の論文を読むと、ビッグデータ分析でよく用いられるマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)などのアルゴリズムも習得されていたことがわかります。
今回は、ORを利活用した人財(本記事では人は「財産」であるとの考えのもと、人材ではなく「人財」と表します)・組織・プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)の最適設計・遂行方法に関して説明します。なお、本稿では、ORを適用した際の戦略概念を述べ、一般的な手法に関しては触れません。ご興味が有る方はORに関する論文がウェブにて原則無償公開 *3されていますので、そちらをご参照いただければアルゴリズムの詳細を知り・学ぶことができます。
【プロジェクトプロセス遂行における重要要素・課題】
プロジェクトを遂行する上において、先ずは業務・プロセスの特性を踏まえ方向性・組織や権限などの状況からあるべき姿を検討します。次に業務ごとの性質を整理し、どのような方向性をもって業務改革を進めるか検討するための材料を揃えるというステップになるのが通例です。
3つの基本要件)
基本要件1:現場業務の的確かつ効率的な遂行支援
基本要件2:業務遂行実態の正確かつタイムリーな把握支援
基本要件3:分析/計画業務の高度化支援
業務を進めるにあたり、プロジェクト現場には多様な要件を満たすために必要となる要素が存在しますが、それらを実態把握するために、プロジェクトを進める上での目的(スコープ)を明確にして、それを実行できる体制にあるのかということを把握していきます。もし仮に、そこで体制上足りない要素がみつかれば、項目反応理論などに基づき、組織配分を適切な人財に割り当てなおします。
そこから実行フェーズへ移りますが、定量的な目標(期間・予算など)をプロジェクト作業分割構成に反映させたうえで、ORで反映させたアルゴリズムに基づいて得られたアウトカムを速やかに・且つ継続的に把握できるフローを構築します。
こうして実際に業務を進めていくと、想定していたプロジェクトスコープを実行するための業務フローが、人的パフォーマンスやプロジェクト工期などの制約、さらに外的要因(方向性の追加・修正など)の影響をうけ、その結果ORアルゴリズムへの修正作業が必要になります。そこで、プロジェクト推進を構成するのに必要な作業ワークパッケージは、プロジェクト開始前からある程度の改変をすることを想定したシステム・及び業務フローをオプションとして備えておくことが重要です。
加えてプロジェクト実施期間中での懸念材料が発生することも、先回りして仮説問題定義・回避策を準備しておく必要があります。例えば、先に触れた業務フローの改変にあたり「ORの計画に落とし込むには各情報のパラメータ/カテゴリ化が必須であり、それらの客観的な評価が難しい」「最適化モデルへの落とし込みには属人的で恣意的(しいてき)な評価が加わる可能性がある」という2点は業務フロー実行期間中で最も発生する確度の高い定量的・定性的な阻害要因(リスク)となります。
これらのフローをもれなく満たすことで、個々の業務をプロセス単位、組織横断クロスファンクションにて最適化するプロジェクト体制の基本的な基盤が構築されます
【(例)ORを使うことによる最適プロセス図解】
参考までにORを利活用した最適人財配置が、業務フローに適切に遂行された概念図を示しておきます。
図解例のとおり、予め定義・想定しておいた予算配分に対してバランスが取れた計画値で遂行することにより、最高・最適なパフォーマンスを発揮できる最適業務推進体制・チームを構築することが可能となります。
OR活用による人員最適配置化図解例
【総括】
ORは、統計解析同様、世の中がより便利になる手法ではあるものの、難解なプロセス・計算式・統計手法が必要なため、なかなか手を出しにくいという意見もあります。
ただし本稿で記載したように方法論(メソッド)を紐解き、繰り返し学び・実証していけば、自ずとデータサイエンスのスキルが身につき自力となっていくので、先ずは「試してみる」という心構えが大事だと考えます。
*1:出所 Wikipedia「オペレーションズ・リサーチ」
*2:出所 CiNii 鳩山由紀夫 氏「野球のOR」
*3:出所 公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会 「アーカイブ集」
http://www.orsj.or.jp/~archive/
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【執筆企業情報】
株式会社博報堂プロダクツ
ダイレクトマーケティング事業本部
「データベースでプロモーションを科学する」をミッションとして顧客ベースのマーケティング戦略を実践いたしております。
【執筆者:略歴】
塚本幸一郎
シニアデータベースマーケティングディレクター
株式会社博報堂プロダクツ ダイレクトマーケティング事業本部
米クラウドCRM/SFAメーカー、米統計解析メーカー、米リスクマネジメントメーカーにて、データドリブンマーケティング、カスタマサクセスインテリジェンス、リスクマネジメント、EBM(Event Based Marketing)など数多くのテーマに沿った提案・導入に携わる。 その後、戦略コンサルティングファーム、ブティックファームにて最高解析責任者CAO兼Managing Partnerとして、数多くの業種へBPR、OPEX、ディープラーニング、外食産業向けIoTを利用した調達業務プロセス改革、マーチャンダイジング、CRM最適化など上流工程からデリバリーまで一気通貫で顧客課題・要件に携わる。統計学・線形計画法・シックスシグマ・金融工学に裏付けされたマーケティングモデル導入に関する多くの方法論を有する。 複数のビジネスコンサルティングファームにて戦略顧問・フェロー・戦略プラクティス統括責任者を経て、現在はデータベースマーケティング戦略コンサルティングに従事。