2017/07/06

ビッグデータ業界のキーパーソンにお話をうかがう「ビッグデータマガジン・インタビュー」。
今回は、iAnalysis合同会社の代表・最高解析責任者であり、日本のデータサイエンティストの第一人者として知られる倉橋一成さまにお話をうかがいました。
―――貴社について教えてください。

倉橋一成さま
iAnalysis合同会社
代表・最高解析責任者(CAO)
弊社は2011年に立ち上げていますが、それ以前の研究室時代から、医療コンサルティング関連の企業や大学・NPO法人に所属しており、臨床試験データやレセプトデータなどを統計解析する際のコンサルティングを手がけてきました。
そもそも私が起業に至った背景には、医療関連の企業でコンサルティングをしていた経験が大きく影響しています。そこでは、研究職の人たちは高度なデータ分析のスキルを駆使して業務を行っていましたが、すぐ隣のマーケティング部門では相変わらず勘と経験による意思決定がなされていたのです。
一部の人だけではなく、全ての人にデータを有効活用してほしい。
もっと、ビジネス全般で役に立つ分析がしたい。
そんな思いがあって、同期のほとんどが医療関連の企業に就職していく中で、ビジネスにおけるデータ活用の推進をミッションとした企業「iAnalysis」を立ち上げました。
おかげさまで、今年までの3年間で、23業種・44社のお客様へサービスをご提供しております。
弊社が扱うサービスは、大きく【コンサルティング】と【受託分析】の2つがあります。
【コンサルティング】では、企業が保有するデータを有効活用して、売上アップやコストダウンにつながる法則性や指標を発見するお手伝いをしています。統計解析のコンサルティングが多いのですが、単に解析だけでなく、データそのものの品質向上(データクレンジングなど)や、様々なデータの組み合わせ方についてもコンサルティングを行っています。統計解析を必要とする論文に関するアドバイスも行っています。
【受託分析】では、企業のデータを弊社が実際に分析を行います。コンサルティングによって浮かび上がってきたことを分析することもありますし、企業が予め用意した内容に沿って分析することもあります。その際、弊社が扱うデータには個人情報が入らないように気をつけてもらっています。個人情報を削除したデータを受け取り、弊社内で分析する場合と、弊社のスタッフが企業に直接伺って分析する場合があります。
また、依頼に応じてセミナーを行うこともあります。1日のコースが多いのですが、データ活用の総論から始まり、サンプルデータの読み込み、R言語やEXCELを使った分析の実習などいろいろ学べるため、おかげさまで好評をいただいております。
―――企業向けの事例について教えてください。
<事例1 大手自動車メーカー・本社企画部>
東証1部にも上場している大手自動車メーカーの売上分析の事例です。これまでは広告代理店に分析を依頼していましたが、新しい視点での分析が必要になり、弊社にお声がかかりました。
国内全店舗のデータをいただき、売上の予測分析をしたのですが、売り上げの底上げに直結する新しいKPI(Key Performance Indicator:重要なプロセス指標)を発見することができました。具体的には、そのKPIを1ポイント改善することにより、1店舗当たりの年間売上が1200万円増加し、全店舗では120億円の増加が見込めることが分かりました。
<事例2 地方中核総合病院>
病床数200という地方としては大規模な総合病院における事例です。事務システムで蓄積されているレセプト(Rezept:医療報酬の明細書)のデータを分析できる形に加工し、そのデータを集計・分析しました。分析結果から、新たに売り上げを捻出できるような示唆が得られたので、それを現場に実装することで、追加で年間1億円もの売上を得ることができました。
医療制度の改革でレセプトの電子化は進んでいますが、蓄積されたデータを有効活用している病院はまだ少ないので、今後も需要が多いケースだと思います。
<事例3 インターネット広告関連企業>
インターネット広告関連のベンチャー企業における事例です。精度の高い広告配信のために、ユーザー属性(性別)をプロファイリングすることが目的でした。最初は顧客が提案するデータを用いて分析を行っていたのですが、予測モデルの正答率が60%程度と低かったため、分析に使うデータを選定するところからコンサルティングを行いました。
インターネット広告の会社ですから、サイトの閲覧ログや検索履歴など、様々なデータがあります。その中で、最適と思われるデータを選び直して再分析した結果、正答率を95%まで向上させることができました。
また弊社では、ビジネスに直結する案件だけでなく、研究案件も請け負っており、海外論文の発表も行っています。一例として、ソーシャルデータをもとにした研究事例をご紹介します。
東京大学の増田直紀准教授と共同で行なった研究で、株式会社ミクシィ様が保有するソーシャルデータを解析することで、いわゆる“自殺サイト”を利用するような人たちのコミュニティが、一般人とどのように異なるのかを解明しています。ここでは「複雑ネットワーク」という理論をベースにして、ソーシャルネットワーク上のダイナミクスを数理モデルとして表現することを試みています。解析の結果から、“自殺サイト”利用者 のコミュニティは1対1で止まる(友だちの友だち、というようなネットワークが拡がらない)ことが分かっています。
この論文は公開されており、MITプレスでも取り上げられています。興味がある方は、下記のURLで詳細をご参照ください。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0062262
―――昨今のビッグデータ・ブームに対する考えを教えてください。
「データサイエンティスト」というキーワードをGoogleトレンドで検索すると、昨年と比較して、海外では検索数が伸びているのに対して、日本では検索数が落ちています。
これをポジティブに解釈すれば、日本では「データサイエンティスト」という役割・職業に対する認知が普及期に入り、ブームが落ち着いたとみることも出来ますが、実感としてはまだまだ普及していないように見えます。
BI(Business Intelligence)という言葉が流行した時から、日本の企業ではデータ活用が普及しにくいと言われてきました。その背景には「話して終わり」の国民性など、様々な要因があるでしょう。しかし、ビッグデータが一過性のブームで終わってしまうのは、あまりにも勿体ないことです。
私自身は、ビッグデータの流行は今年1年くらい続くのでは、と考えています。逆に言えば、その先はユーザー企業にどれだけビッグデータの利活用が普及するかが勝負だと思っています。
データ分析の業務とは本来、外注するべきものではなく、自社内で行うべきです。そのためにも、末端の社員までデータ分析のリテラシーを向上させることが重要になってきます。これはまさに、弊社のミッションでもあります。

iAnalysis合同会社 代表・最高解析責任者(CAO) 倉橋一成さま(左)
ビッグデータマガジン編集長 高橋範光(右)
現在、弊社ではデータ分析をもっと身近にするためのツールの開発にも取り組んでいます。これもビッグデータの利活用に限らず、あらゆる分野でデータ活用の裾野を拡げることに貢献したいという思いから始めています。弊社のビジョンや事業にご賛同頂ける事業パートナーや投資家の方を募集しておりますので、ぜひお電話かメールでご連絡いただければ幸いです。
iAnalysis合同会社(http://ianalysis.jp)