2017/07/06

こんにちは。ビッグデータマガジンの廣野です。
今回は、身近に使われているビッグデータの一例として、スマートハウスについてご紹介したいと思います。
私自身、住宅の購入には興味があり、趣味と実益を兼ねて(?)物件や候補地について調べていますが、よく出てくるキーワードが「スマートハウス」です。
各種補助金の対象にもなっており、エコでランニングコストが安いなど多くのメリットが知られており、普及も進んでいます。
「住宅」と「ビッグデータ」という、一見すると関連が薄いように感じられる2つのものが、いったいどのように結びついているのでしょうか。
■エネルギー問題で注目を集めるスマートハウス
スマートハウスという言葉は、1980年代にアメリカで生まれました。当時はITを駆使して、様々な家電を自動で制御することで、快適さや効率化を目指すことが目的でした。「インテリジェントハウス」や「ユビキタスハウス」などという別称もあります。
日本では1988年から本格的な普及推進が始まっており、そのころから住宅単体の問題として捉えるのではなく、地域単位でエネルギーや通信等のインフラを最適化する広範な問題として定義されています。
住宅の購入に興味が無い方には馴染みが薄い言葉かも知れませんが「スマホから家のエアコンが操作できる」「室温の分布をセンサーで識別して効率よく冷房する」といった空調設備での事例なら、なんとなく知っているのではないでしょうか。
東日本大震災以降、夏の節電に代表される省エネルギー化は、誰にとっても無関係ではない問題です。その解決策としてスマートハウスが注目されており、各住宅メーカーはスマートハウスの商品開発に力を入れています。
以前、交通安全の記事(ビッグデータで交通事故件数 2割減! ~交通安全とビッグデータ~https://bdm.dga.co.jp/?p=307)をご紹介しましたが、自動車が急速に“IT製品”に近づいているように、住宅も“IT製品”に近づきつつあるのです!
市場調査で有名な矢野経済研究所の調査によると、今後、スマートハウスに関連する設備機器の市場は拡大し、来年(2015年)には1兆円を超える市場にまで成長すると予測されています。
一般的にスマートハウスは、設備にかかる初期コストが平均して400~500万円程度高くなりますが、国や自治体による各種補助金や、その後の維持コストが安くなる点で有利なため、普及が進むことは間違いないようです。
■ビッグなデータは、どこから生まれるか?
スマートハウスには、エネルギー(主に電力)を“創る”“ためる”“節約する”“管理する”という大きく4つの機能が備わっており、それぞれから膨大な量のデータが発生しています。どんなデータが発生しているのかを紹介してから、それが何に活用されているのかを見ていきたいと思います。
住宅でエネルギーを“創る”方法の代表例は、太陽光発電です。近年、ソーラーパネルが設置された住宅は珍しくはありませんが、他にも住宅で利用できる発電の方法として、風力発電や地熱発電があります。階段等の振動を利用した振動発電などもありますが、まだ発電能力が低いため、実験段階の技術のようです。
ここで発生するデータは時系列の「発電量」「日射量(時間)」「気温」などで、他にも各種センサーがついていれば「風速」「雨量」なども取得できます。データは3G通信回線やLANを経由して、30分に1回程度の間隔で収集されます。その集計結果をユーザー(居住者)はPCやタブレットでいつでも確認することができます。

「HEMS」画面イメージ(東芝) ライフスタイルに合わせたサービス提供 (参考URL:http://www.toshiba.co.jp/about/press/2013_07/pr_j0202.htm)
1回の取得データ量は数十から数百バイトと言われており、家1軒では大きなデータ量になりませんが、メーカー側には複数の家からデータが送られてくるため、膨大な量のデータが蓄積されます。
住宅でエネルギーを“ためる”方法は蓄電システムです。太陽光発電などで供給された電気を蓄積しておくための装置ですが、最近ではリチウムイオン電池を採用される家が増えてきました。ちなみに従来の鉛電池も、重量と設置スペースの点で難はありますが、低コストで済むためまだまだ使われています。リチウムイオン電池は、電源用の蓄電池としてはかなり高価で、管理が悪ければすぐに劣化するというデメリットもありますが、コンパクトで容量も大きいため導入が増えています。
ここで発生するデータは時系列の「給電量」「蓄電量」が基本ですが、データを取得する頻度や方法については、上述の“創る”とほぼ同じです。
住宅でエネルギーを“節約する”、“管理する”方法はHEMS(Home Energy Management System、ヘムス)が有名ですが、スマートグリッド(通信・制御機能を活用した電力網により需給バランスの最適化を図る仕組み)の家庭版と言えるでしょう。
HEMSは時間とともに変化する電力の需給量を分析して最適化を図るシステムで、例えば需要が少ない夜間に電力を蓄積し、昼間の電力をたくさん使う時間帯に利用することで、電力使用量の急激な増加を抑えたりします。地域全体の節電対策にもなりますし、夜間のほうが電気料金は安いので、利用者にも経済的メリットがあります。
また、HEMSが管理する情報には、人の在・不在を感知して電源のオン・オフを自動的に行う照明器具や、生活パターンを学習して自動的に冷暖房の最適化を行うエアコンなどのスマート家電も含まれます。つまり、エネルギーの管理情報だけでなく、(その気になれば)ありとあらゆる生活情報までも取得できるのです。住宅の“IT製品化”に拍車をかけているのは、むしろこうした情報家電たちです。
これら家電制御のデータまで含めると、HEMSが扱うデータは非常に多岐にわたります。電力がどのように創られ、どのように蓄積され、どこに使われているか、というログ(記録)データを筆頭に、「気温・室温」「湿度」「日照」などの環境に関するデータや、情報家電の「稼働時間」「移動距離」「処理量」等のデータが加わります。
■「スマートな住宅」のメリットは?
さて、スマートハウスから発生するビッグデータを活用することで、どんな恩恵が得られるのでしょうか?
最大の恩恵は、もちろん電力使用量の最適化による節電効果です。実際に、どれくらいの効果があるかは、様々なレポートが公表されています。
2012年のデータですが、大阪ガスと積水ハウスが実証実験(家族3人が1年間スマートハウスで生活したデータをもとに検証)をしたところ、光熱費は「約21万円の支出」から「約10万円の収入」に改善され、88%の節電効果が確認できたと発表しています。
(参考URL:http://www.osakagas.co.jp/company/press/pr_2012/1198387_5712.html)
2013年の11月に行われた積水化学工業による調査(対象は12万4413棟のスマートハウス)では、1日平均で発電量は1894MW(メガワット)、そのうちの約39%にあたる741MWが家庭で消費され、残りの約61%にあたる1153MWが余剰電力として電力会社に売電されたことが分かりました。わかりやすい単位に置き換えると、エアコン200万台・テレビ73万台分の節電効果となります。
(参考URL:http://smarthouse-lab.com/2013/11/power%E2%80%90saving-effect/)
他にも、HEMSで取得できるデータを使えば、いろいろなことが思いつきます。
単身の高齢者が住む家では、電力使用時間の推移をもとに、機械学習で居住者生活パターンを学習しておくと、急病や寝たきりになって動けなくなったときに、通常の電力消費パターンを逸脱するため、自動的に保健所等へ出動要請を出すことができます。
寝室の照明器具の利用時間(照明がついている時間=起きている時間)を分析することで、生活リズムの乱れを指摘して改善を促すことや、メンタルヘルスの不調を予測して診察を促すこともできるでしょう。
セキュリティにも応用できます。家に誰もいないはずの時間帯なのに、玄関のドアが空いたら、スマートフォンなどに警報を出すことができます。警報が来たら、その場で家中の窓・扉を自動ロックすることもできるでしょう。
こうしたアイデアは、GoogleやAppleが提供し始めているスマートハウス向けのアプリが加わることで、一気に現実味が増してきます。今後、スマートハウスの購入を検討している人は、こちらの動きも併せてチェックしておくと良いでしょう。
(参考URL:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1406/25/news053.html)
■スマートハウスの未来
IoT(Internet of Things、物のインターネット化)の普及が進む現在、住宅に限らず、様々な「物」がデバイスとなり、データを取得できます。
スマートハウスでも、例えばウェアラブルセンサー(リストバンド型など)を身に着けてもらい、そこから得られる生体情報(脈拍数、体温、加速度など)と、スマート家電から得られる環境情報(室温、湿度、照度、アレルゲンの飛沫量やそれらの分布)を組み合わせて分析することで、体調管理へのアドバイスができるでしょう。
家だけでなく、自動車も組み合わせて考えたら、どんなことが実現できるでしょうか?そんなユニークな実証実験があります。積水ハウス、東芝、本田技研工業の3社が共同で実験ハウスをさいたま市に建設し、家庭、モビリティー、地域のエネルギー需給を総合的にコントロールするエネルギーマネジメント技術を取り入れた、先進の暮らしの検証を開始しました。
「生涯にわたって豊かに過ごせる暮らし、モビリティーを含めた暮らしのCO2排出量をゼロとする2020年の暮らし」という近未来は、既に現実化しているのです。
また、スマートハウスという概念は、スマートコミュニティという概念へ拡大・進化しています。それは、個人がより豊かで便利になるという小さな話ではなく、地域が、環境が、人と人の関わり方がより良いものへ変わることを目指す大きな概念です。
経済産業省は、スマートコミュニティに関して、次のような青写真を示しています。

スマートコミュニティのイメージ(経済産業省のHPより)
(参考URL:http://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/smart_community/)
これはあくまで概念ですので、具体的にどんな社会を目指しているのか興味がある方は、時間があるときにぜひ、以下の動画(東芝の事例)もご覧ください。
あなたは、こんな暮らしに憧れますか?
これが大都市で実現したら、どんな未来になるでしょうか?
東芝スマートコミュニティ ケーススタディ「沖縄・宮古島」エネルギーマネジメント