2017/07/06

こんにちは、ビッグデータマガジン執筆担当の杉浦です。今回は前回に続き、 “ビッグデータ活用のトレンド”を象徴するキーワード、「モノのインターネット(IoT)」について解説いたします。
前編では「IoTの現状」をお話ししました。後編では「IoTの将来と課題」に触れてまいります。
<IoTの将来>
2013年10月に調査会社のガートナーはインターネット接続デバイスについて下記のように発表しています。
- 2009年時点で、25億個のデバイスがインターネットに接続していた。うちパーソナルデバイスが16億個、IoTが9億個。
- 2020年には、300億個を超え、パーソナルデバイスが73億個、IoTが300億個となる。
- 2020年までのIoT増大によって得られる経済価値は1兆9000億ドルに及ぶ。(内訳は下図)
同様にインテルは2014年4月に「2020年までにインターネットに接続しているデバイスの数が、2015年予想の150億台を大幅に超えて500億台まで増える。その多くが、PCやスマートフォン、タブレットといった“人が使うデバイス”ではなく、自動車や自動販売機、工場設置機器、そして、医療機器である。」と発表しています。
そして、2013年12月に調査会社のIDCは、「2020年までに自律的にインターネットに接続されるモノは300億台、IoT市場の売り上げは8兆9,000億ドルに達する。」と発表しています。(http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20131206Apr.html)
各社、デバイス数に違いがあったり、“市場”の定義や予測数値に違いがあったりするものの、IoTのデバイス台数は急激に伸び、その経済インパクトが驚異的であることに異を唱える内容は見当たりません。デバイス数が10倍以上ですから、データ量は100倍とか1,000倍などといった規模に膨らむことでしょう。
<将来の活用イメージ>
前編でも述べましたが、IoTに関する取り組みは始まったばかりで、活用方法についてはアイディアを試行している段階です。今後もさまざまなアイディアが求められ、多くの試行錯誤により効果が検証されていくことでしょう。以下に、活用のヒントをいくつか挙げてみます。
(1)移動体の安全、効率
身近な移動体と言えば自動車です。Googleや自動車メーカー各社は安全確保のための自動運転技術の開発で競い合っていますが、あいおいニッセイ同和損害保険がトヨタ自動車と組んで2015年度に発売する予定の新しい“自動車保険サービス”のような、リスク予測をサービスに反映させるような取り組みも見られます。トヨタ自動車の提供する「T-Connect」を活用してデータ収集しています。
また富士通は、商用車のデータを収集して、“道路”“貨物自動車”“エネルギー”といった資源の効率配分を目指す「商用車プローブデータ・サービス」に取り組んでいます。
(2)経験や勘の見える化
これまで経験と勘に支えられてきた“農業”にも、データ活用を模索する動きが見られます。
2014年7月、NECは小松市のトマト農家5軒12棟のハウスに、農業ICTクラウドサービスを提供したと発表しました。センサーからのデータを集約するM2Mソリューション「CONNEXIVE(コネクシブ)」を、施設園芸の監視に活用したものだそうです。
トヨタ自動車は、2014年4月に「豊作計画」という米を生産する農業法人向けの支援システムを発表しました。まずは愛知県と石川県の9社の農業法人に提供するそうです。
9社の作業実績をクラウド上で共有し、「稲作ビッグデータ」として分析、気象条件、品種、肥料、作業手順、工数、乾燥などの条件をどのようにすれば、美味しい米が低コストで、どの程度収穫できるか?を分析していくのだそうです。このプロジェクトは、農林水産省が「先端モデル農業確立実証事業」として支援しているようです。「育苗もジャスト・イン・タイムにし、廃棄ロスを減らす」と言っている点は、トヨタらしいですね。
(3)ウエアラブルによるバックオフィス業務の効率化
ウエアラブル・デバイスについては前編でも触れましたが、Google Glass やJINSのミーム、その他、リストバンド型の生体情報センサーなど多種多様なデバイスが、すでに発表されています。
さて、これらのデバイスを、どう活かすのが良いでしょうか。現時点では、個人の趣味や、スポーツでの活用が目立ちますが、私自身は「業務を効率化するための活用」が早期に広がるのでは?と考えています。
興味本位でウエアラブル・デバイスを買って装着してみても、“面白い”とか“珍しい”という感覚だけでは、すぐに飽きてしまうことでしょう。また、スポーツ分野では効果が出ると思いますが、本気でその種目に取り組んでいるアスリート以外の一般人には、あまり愛用されないのでは?と考えるからです。
しかし業務効率が改善されるなら別です。企業はウエアラブル・デバイスの使用を“指示”するからです。たとえば、自動車や住宅設備の修繕スタッフ向けの、修理マニュアルや修理事例をARで表示すれば、両手がふさがらず、分厚いマニュアルを持ち歩く必要もなく、作業工数が劇的に減る可能性があります。物流倉庫や、工場内でも有用でしょう。
さすがに、お客さま情報をGoogle Glass で確認するというのは、お客さま視点では“気持ち悪い”でしょうから、お客さまと接点がある現場ではなく、バックオフィス業務で使用されることが先行すると予測しています。
<なぜ「自然や社会と人間活動の関係を科学する」ことを期待できるのか?>
人間の活動が自然や社会に影響を与えていることは確かですが、どの活動が、どのような影響を、どの程度与えているのか?については、まだまだ明らかになっていない事が多いことも事実です。
「科学する」とは、再現性のある多くの事象にあてはまる理論を提唱し、それを実験によって証明し、さらにはその理論から外れた新たな再現性のある事象を発見し、従前の理論を新たな事象を包含した理論に昇華させるという、継続した取り組みのことを指します。
「自然や社会と人間活動の関係を科学する」ためには“自然や社会の状態”と“人間活動”を測定する必要があります。
これまで測定されていなかった“状態”や“活動”を、IoTが測定可能にしつつあるのです。このような背景から、「自然や社会と人間活動の関係を科学する」ことが期待されているのです。
<IoTによるビッグデータ活用の課題>
(1)人材の課題
インターネットに繋がる“モノ”が増え、そこから得られるデータの量や種類が増えても、それらから有用な分析モデルを開発し、実社会で活用するためには“人材”がカギになります。“モノ”が増えても“人材”増えなければ、IoTを役立てることができません。
すなわちIoTを活用できる人材の発掘や育成は大きな課題です。また、“モノ”は急速に増やしたり、即座に改良したりすることが可能ですが、“人材”の課題は、急には対応できないのが現実です。早期に始め、粘り強く続け、決して途中で止めない覚悟が必要です。
現在は、さまざまな人材育成、人材発掘の方法を模索している段階です。
- トヨタIT開発センター&サムライインキュベート
トヨタIT開発センターは、サムライインキュベートと協力して、2014年10月にイスラエルにてハッカソンを開催するそうです。
トヨタ車10万台の位置、車速、ブレーキ、アクセル、ワイパーの動作状況といったようなクルマのビッグデータを活用して、どのように人々に楽しみを提供できるのか、いかに社会に貢献していけるのかをテーマに、イスラエルの技術者がアプリ開発を競います。
●全米を舞台に展開される「IoT ハッカソン」で日本人が優勝
AT&Tが主催する、24時間でモバイルアプリを作るというテーマのハッカソンが、2013年8月から全米4会場で開催され、各地で勝ち抜いたファイナリスト8チームによる最終決戦が2014年1月5日にラスベガスで行われました。
ここでは、日本人のチームが優勝したようです。
http://techwave.jp/archives/japanese_wins_att_developer_hackathon.html
(2)セキュリティの課題
もうひとつの課題として、“セキュリティ”が挙げられます。現在、IoTを構成するデバイスやOS、コンポーネントなどの研究開発は進んでいますが、それらを実装したり、データ収集が始まったりした後のセキュリティの研究・検証については、まだまだ遅れているという状況です。特に、多様なデバイスが出現し続け、多様な活用アイディアが創出されることを考えると、セキュリティリスクの増大が安易に想像できますね。
安心してIoTでデータ収集・活用できるよう、継続したセキュリティの研究が必要になる事は間違いありません。
<まとめ>
■センサーも、収集されるデータも急速に増大します。
これから5〜6年で、インターネットに接続し、自律的にデータを送信するセンサーの数は10〜20倍になると予測されています。収集されるデータ量はそれ以上に増えていきます。増大するIoT専用のデータ格納クラウドなどの周辺サービスも増えてくることでしょう。
■IoT活用アイディアは、まだまだ足りていません。
すでに取り上げられている活用アイディアであっても、まだ実証実験段階であり、人類と自然や社会との関係を紐解くには、まだまだアイディアを創出する努力が必要です。
■IoT活用のために、人材輩出の強化が必要
結局、人類の将来は人材によってしか拓かれないことは明白です。技術革新と同時に、世界中から人材を発掘し、育成し、活躍の場を提供することが必要です。
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【執筆者情報】
杉浦 治(すぎうらおさむ)
株式会社 AppGT 取締役
株式会社 学びラボ 代表取締役
一般財団法人ネットショップ能力認定機構 理事
2002年デジタルハリウッド株式会社取締役に就任。IT業界における経営スペシャリスト育成やネット事業者向け研修開発を行う。
2010年4月「ネットショップ能力認定機構」設立。ネットショップ運営能力を測る「ネットショップ検定」を主催。
2013年7月、プレステージ・インターナショナル(東証一部)より出資を受けて(株)AppGTを設立。コンタクトセンターに蓄積された顧客コミュニ ケーションデータを分析し、今後の主要な顧客接点となるスマートフォンの活用において、様々な研究や企画提案を行っている。