2017/07/06

未来の鏡ともいえるインタラクティブなミラー。
今回はパナソニックが手掛ける次世代の鏡「スノービューティーミラー」の特集です。
まずはこの写真をご覧ください。すこしわかりにくいかもしれませんが、実際の私の顔(写真右)とミラーに映る顔に違いがあることがおわかりいただけるでしょうか。
これは、メイクシミュレーション機能によって投影された化粧後の私の顔です。ミラーにはメイクパターンがいくつも表示されており、そのうちの1つを選択すると、私の顔の映像にメイクをしたシミュレーション映像が映し出されます。
しかもこの映像は静止画ではなく、顔の角度を変えると、メイクをした顔も同じように角度を変えて、映し出されます。
このシミュレーション機能は、眉や唇、肌の色等々、個別のパーツを自分自身で微調整することもできるようになっています。
また、このミラーにはメイク機能だけでなく、鏡の前に座るだけで、肌状態をチェックする機能、例えば、シワ、隠れシミをチェックできる機能も搭載されています。
今回は、この興味深い「スノービューティーミラー」について、研究・開発に携わったパナソニック株式会社アプライアンス社のみなさまからお話をうかがってきました。
—パナソニックには、自宅でエステのようなケアが行える美容家電がありますが、このミラーはその延長で開発が進んだのでしょうか?開発経緯を教えてください。
このミラーのアイデアは、パナソニックの美容家電からの派生ではなく、2012年6月に行われた新規事業検討の社内ワークショップから誕生したものです。白物家電と呼ばれる生活家電事業と、テレビやレコーダといった黒物家電事業との白黒融合によって、なにか新しいものが作れないかを検討していく中でうまれたアイデアです。ワークショップでは幾つかアイデアがあがったのですが、テーマとして取り組んだものは「スノービューティーミラー」だけでした。
家に置いてある鏡は生活の動線上にあり、毎日自然と目に入ってくる存在です。そこで、毎日見るこの鏡に何か工夫ができないかと考えました。サイネージ機能だけでなく、パナソニックが保有する様々な技術を結集すると、どんなものができるかと考えて、作り上げたのがこのミラーです。
実際、パナソニックの保有する技術の一つにメイクシミュレーション機能があります。しかし、類似するような機能はスマホアプリにも存在していました。そこで、このミラーでは、化粧のノリをよりリアルに再現できるようにするために、顔の動きに映像が完全についてくるように、約1/20秒で追随する顔認識の技術を採用しました。また、見えないシミやしわといったお肌の状態をチェックできるような機能も用意しました。チェック結果は、ミラーの置かれている場所の照明状態なども考慮したうえで、分析・表示されるようになっています。
—研究・開発にあたり、こだわった点はありますか?
先程もお話した化粧が顔の動きに追随する機能にはかなりこだわりました。マスカラを塗ったまつ毛がまばたきをするところをご覧になればおわかりいただけるのですが、シミュレーションしたメイクが自然に顔になじむよう顔認識・合成技術も細部にまでこだわっています。
その結果、スマホアプリのような上から貼り付けられたようなメイクではなく、実際にコスメカウンターで美容部員の方にメイクしてもらっているかのようなリアルさを再現できるようになり、ドイツ・ベルリンで行われた「IFA 2015」ブースでの展示では、みなさまに大変好評をいただきました。
このメイクは、実際に活躍しているプロのメイキャップアーティストによって監修してもらっています。きらきらとしたラメ感やツヤ感を映像としてそのまま顔に乗せると、実態とは異なり、顔に砂がついてしまったように見えるため、デジタルで見たときにあたかもアナログのように再現できるといった微調整をプロの目から見ても納得できるレベルにまで実現していきました。
また、顧客目線で本当に欲しい機能を実現するために、アジア六ヶ所(東京、インド、インドネシア、上海、北京、タイ)でVOC(Voice of Customer:顧客の声調査)を実施しました。その結果、「鏡の上部にあからさまにカメラがついているのが見えると抵抗を感じる」という意見があがりました。そこで、鏡の上部につけていたカメラを、鏡の裏側に配置し、正面からはほぼ見えないようにしました。
他にも、多くの顧客の声を反映し、ミラーを作りこんでいます。
このように、肌や人間の動きといったアナログなものをデジタルで再現し、さらに不自然さを排除するためにパナソニックが既存の事業で培ったセンシング技術、顔認識技術や並列処理技術を利用し、このミラーは完成しました。
もちろん、製造の過程においては、必要な技術の専門家とともに意見をすりあわせ、技術者はそれをどのように実現するかを部門横断で検討しながら作っていきました。参加してくださった方々は皆、この鏡に、何かのポテンシャルを感じるとともに、社内の技術が従来とは異なった形で活かせることから、非常に協力的で一つ一つの問題をクリアすることができました。
—今後このミラーは、どのような場所での活用シーンがあるとお考えですか?
美容で使うのであれば、セルフで行う美容チェックとして、エステティックサロンやスポーツジム、デパート・百貨店のラウンジ、ホテルの設備などで利用できると考えています。
また、コスメカウンターやドラッグストアなどの販売員のサポート、スキンチェックのサポートツールとしても活用いただけるでしょう。さらに、ポイントカードなどの会員IDと紐づけることで、これまでの購入履歴から新しいメイクパターンや新商品を試していただくきっかけとして活用いただくことも可能でしょう。
鏡というと、女性向けのメイクでの利用シーンが中心に考えられますが、このミラーはカスタマイズしていくことで、各種ダッシュボードのような使い方も検討可能です。
例えば、普段は鏡として利用しながら、顔認識技術による体調チェックをもとに、食事やサプリメント、時間の過ごし方などのおすすめが表示され、スケジュール、メール、その日の天気予報、さらに服装や雨具などの組合せのリコメンドにもつなげられます
電源を入れなければ単なる鏡ですので、生活や場所に自然にとけこめる分、さまざまなシーンでの活用が検討可能だと考えています。
編集後記
鏡という領域を超えたIoT家電「スノービューティーミラー」。
インタビュー中、想像以上のクォリティーで「すごい!」「おもしろい!」をひたすら連呼してしまいました(アナログでもありデジタルでもあるというこの新しい感覚を文章でお伝えしきれない無力感を抱いています)。
そして、熱い想いをもとにパナソニックが保有してきた技術をかけ合わせ、部門横断で進められた開発時のお話を聞き、本当に感動しました。
パナソニックセンター(東京都江東区有明)では、実際にこのミラーが体験できます。次世代の鏡をぜひ体感してみてはいかがでしょうか。
(土本 寛子)
【パナソニックセンター(東京)】
〒135-0063 東京都江東区有明3丁目5番1号
03-3599-2600(受付 火曜日~日曜日、10時~18時)