2017/07/06

今回は交通データを数多く保有するナビタイムジャパンさまに取材に伺い、実際にどのようなデータが蓄積され、そのデータを用いてどのように活用されているのかを調査してまいりました。
ナビタイムといえば、地図やルート検索でお世話になっている方も多いかと思います。
乗換案内では複雑な乗換も、時間/料金/乗換の視点でトータルに評価したうえで乗換を即座に表示してくれるだけでなく、遅延発生時にはその情報も反映させた迂回ルートの検索が行えます。
そして、同様に車でのルート検索やバス乗換、そして最近では自転車でのルート検索も提供されるようになりました。
また、トータルナビでは、電車・飛行機・バス・徒歩などさまざまな移動手段を組み合わせて、出発地から目的地までの最適ルートを検索することもできます。
(※一部有料サービスあり)
これらの様々なサービスをユーザーにストレスなく利用できる環境を提供するナビタイムは、その利便性が評価され、月間3000万人ものユーザーに利用されるサービスとなっています。
ユーザーの利用データ量だけでも膨大になることが予想されますが、このサービスの裏には、ダイヤ情報、乗換時に発生する駅間の距離や時間、駅構内情報、遅延情報、地図情報、地図から算出される徒歩・車・自転車での移動ルートや想定される移動時間等々、膨大なマスターデータが保持されていることがわかります。
ナビタイムは、それらのマスターデータと、利用データを蓄積し分析することで、個人ユーザーの利便性向上につなげるだけでなく、交通や観光にも活用している点が着目すべき点といえます。
今回ご紹介するのは、ナビタイムが蓄積している次の5つのデータです。
1)携帯カーナビプローブデータ
2)経路検索条件データ
3)経路選択データ
4)公共交通時刻表データ
5)インバウンドGPSデータ
今回はこのうち、1~4のデータについて、どのようなデータをどのように活用しているかをみていきます。
1)携帯カーナビプローブデータ
携帯カーナビプローブデータとは、ナビタイムが提供するカーナビゲーションから取得される1~6秒間隔で測位したGPS座標を用いて速度等を算出した走行履歴データです。当然ながら匿名化されて利用されます。
高速道路のデータであれば、ETCでもデータを取ることが可能ですが、インターチェンジを降りた後までは行動を追うことができません。一方で、ナビタイムのデータは、 一般道を含めた走行履歴がわかるのが特徴です。その特徴を活かして分析すれば、たとえば道路が新たにできることで走行ルートがどのように変化したかを知ることができます。
圏央道を例に見てみましょう。
圏央道開通前は、神奈川から埼玉へ移動する際、一度都心に出て渋滞に巻き込まれるルートが多く使われていました。しかし、圏央道開通後は95%の人が、都心を回避し圏央道を利用する流れに変わったことがわかります。
また、圏央道開通によって渋滞が緩和された交差点があったこともわかりました。たとえば橋本駅南入口交差点では、圏央道の開通によって長距離を移動する自動車が生活道路に入り込まなくなり、渋滞が緩和されました。一方で、厚木→海老名では朝夕の渋滞が発生したことがわかるなど、これらのデータをもとに新たな交通課題の発見も可能です。
また、携帯カーナビプローブデータでは交差点を通るときに、どこからどの方向に向かうとどれくらい時間がかかるのかがわかるので、日本中の交差点を中心とした渋滞が可視化できることも特徴です。
たとえば、東京で一番渋滞する交差点 はどこだと思いますか?直観的に都心部の大きな交差点をイメージしたのですが、調査当時、平均左折時間が最も長かった交差点は「西巣鴨」だったそうです。
西巣鴨の交差点では平日15時頃、左折するのに約2分半も待たされることがわかりました。そこで、なぜその交差点が混雑するかを調査したところ、近隣に学校が多く、交差点付近は通学路として利用されており、下校の時間に学生が占拠していたためとわかりました。このようなケースでは一般的に、青信号の時間の調整などをすることで渋滞の緩和につなげることができるといわれています。
この事例が示すように、人間の勘だけでは混雑する交差点を特定するのに限界があることがわかります。
ナビタイムのデータだからこその気づきだったといえるのではないでしょうか。
2) 経路検索条件データ
二つ目のデータは、経路検索条件データです。検索条件で日付や時間を入力してもらっているため、どこからどこへいつ行こうとしているのかがわかります。つまり、移動の需要がわかるということです。
これを活用することで、観光へ行った際、どの組合せで観光地に立ち寄っているかといった回遊行動が分析できます。
たとえば、北陸圏では兼六園や東尋坊、輪島朝市がハブとなり、その前後でほかのスポットへ回遊することが多いことがわかります。
このように、観光地へおとずれた方々が、どこから来て、どこへ寄っているのかがわかれば、的確な観光施策が打てます。
また、エリアに対する検索から戦略的な商圏拡大の検討材料にもなります。たとえば、前述した圏央道の開通により、静岡県の大型ショッピングモールを目的地とする検索が遠く離れた東京都多摩地方、埼玉県、群馬県から大幅に増えたこともがわかりました。
3)経路選択データ
次は、複数経路の中からどの経路をユーザーが選択したかをデータ化した「経路選択データ」です。
カーナビでは、表示された複数ルートから1つを選択すると案内が開始されます。電車での乗換案内でも、複数のルートが表示され、その中から1つを選び、メールを送信したり、カレンダーに登録したりすることで、その経路を選択したと考えることができます。このデータを用いて、ユーザーの意思決定を分析していきます。
たとえば、各駅から成田空港までどのようなルートが選ばれているか、データを収集・分析してみたところ、各駅で、空港まで直行する路線のシェアが高いという結果になりました。
そこで、青砥駅に、有料のスカイライナーを止めれば都営浅草線・京成押上線沿線から空港へ向かう人の客単価を上げられるかもしれないという仮説 も立てられます。
ナビタイムが持つデータを活用することで、各鉄道会社が自社で保有する乗降データだけではわからない、他社も含む利用者の実態を把握することも可能になります。
4)公共交通時刻表データ
公共交通時刻表データとは、路線・バス・運賃・時刻表など、経路検索した結果表示される、いわばマスターデータです。
ナビタイムでは全国240事業所、93,242停留所、380,069便のデータを取り扱っており、ダイヤ改正は年に1,712回にも及びます 。
これらのデータは、経路検索サービスに利用されるだけではなく、事業者・自治体へは他の交通網との接続を含めた運行頻度や時間の見直し検討に利用できます。
たとえば、平成24年度 広島県公共交通移動活発化検討会では、広島県内でのバスやフェリーの利便性向上のために時刻表を分析しました。その結果、課題として、広島空港から大崎上島町木江支所までフェリーとバスを利用して移動した場合の目的地までの乗換平均時間が65分に対して、土曜11時25分に出発するフェリーを利用すると143分も時間がかかってしまうことがわかりました。
まさに、トータルにデータを保有しているナビタイムだからこそできる分析です。
ナビタイムを利用した検索データを含む、ここまでご紹介した4種類のデータが、アプリの利便性向上だけでなく、交通そのものの利便性向上にまで活かすことができるということがよくわかりました。
次回は、ナビタイムが保有するもう一つのデータ「インバウンドGPSデータ」について特集します。
(土本寛子)