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日本発のものづくりIoTは、現場から学び、現場を改革する~IoTに革命を起こす「FOA」とは~

time 2016/01/14

日本発のものづくりIoTは、現場から学び、現場を改革する~IoTに革命を起こす「FOA」とは~

 最近はIoTが話題となり、データと格闘する人がものづくりの現場でも増えてきています。しかし、ものづくりの現場には、IoTと呼ばれるずっと以前からデータを活用し、現場の改善(カイゼン)に役立ててきた人たちがいました。

今回は、長年製造業の生産現場を歩み、そのマネジメント・ノウハウを基に日本流ものづくりから生まれたFlow Oriented Approach(=FOA)というコンセプトを提唱する株式会社smart-FOA代表取締役社長 奥雅春氏(以下、奥社長)に、これからのものづくりの現場で求められるIoT、ビッグデータ活用についてお話をうかがいました。

 

 ■データはデータ。価値を生み出すには「意味のあるメッセージ」が必要

 

—–社名にもあるFOAとはどういったものなのですか?

株式会社 smart-FOA 代表取締役社長 奥雅春氏

株式会社 smart-FOA 代表取締役社長 奥雅春

奥社長:FOA(Flow Oriented Approach)とは、現場のコトバをベースにして、製造現場で発生する生データに背景や説明情報を加えることで、意味のあるメッセージとして即座に“データ”を“情報”化し、共有する仕組みを指します。

どの現場でもそうですが、特にものづくりの現場では、制御機器などが発するイベントや人の入力する生データを分析することがありますが、実際にその現場で起きているイベント(事象)にはデータが生み出された状況や事情を示す「背景データ」や、判断の尺度となる基準やアクションに役立つ傾向予測やノウハウなどの「説明データ」が必ず存在するのです。

そこで、それらのデータを付け加え、「意味のあるメッセージ」=“情報短冊(CTM:Context Message)”として処理する必要があると考えたのです。FOAとは、このような考え方や仕組みをベースに、システムを構築していくアプローチです。

 

 

FOAコンセプト

FOAコンセプト

 

—–データから面白い示唆の抽出や現場判断を試みて失敗する事例が多くありますが、何が原因だと考えられていますか?

奥社長:データを活用するためには、当然ですが活用する人や組織に意味が伝わるようになっていることが必要となります。例えば、加熱缶の温度が167度だといったときに、これが正常なのか、危険が伴うほどの重大な事態なのかがわかっている人には情報となりますが理解されなければ、単なるデータです。

私は、データから、意味が伝えられるようにしたものを「情報」として「データ」とは意識的に言い分けて使っています。

現場の人が、面白い発見に繋げたり、組織的な判断をするために、“情報”として昇華するプロセスを考えれば分かりますが、データを見た後に行われるのは、「そのデータはいつのものか?誰が担当していた?何を作っていた?」という現場の会話(コミュニケーション)です。

つまり、人や組織が情報を活用するためには、現場で起こった事象を説明する観点から背景データや説明データを付属させて、マネジメント層や保全担当など様々な組織の関係者に理解されるための情報化が必要であり、このようなことが十分に理解されないまま、データ活用をしようとしてもなかなかうまくいきません。

人や組織がビッグデータから価値を生み出す際に、大量のデータから価値ある情報を切り出すことが一般的になっています。大量のデータがベースになりますから、今まで以上に人や組織の分析や意思決定、そしてアクションにとって価値ある情報が得られる可能性は高まるでしょう。しかし、人や組織自らがデータから気づきや仮説を得ようとすると、単なるデータの山ではなく、人や組織が理解できる「情報」が必要となります。そのためには、ビッグデータをデータの塊と考えるのではなく、現場の会話(5W1Hの形)に似せて様々なイベントに背景や説明情報を組み合わせ、Readability(可読性)を挙げて活用しようというのが“情報短冊”であり、ビッグデータをそのピース情報の大きな集合体とするのがFOAです。

 

—–現場のコトバがデータ化されれば、現場と分析者とのコミュニケーションの齟齬も減りますね。

奥社長:現場のコトバは非常に大事です。「わが社の常識、世の中の非常識」ともなりかねないところは注意すべきところですが、これがあって初めて組織や現場が動くというものです。例えば、平均という言葉をとっても、どこからどこまでの平均か、昨日1日、1週間でも平均となってしまいます。しかし、誰のデータか、どの機械か、ということまで全て組み合わせて定義すると無限の組合せになってしまいます。

現場のコトバ(デジタル化データを含む)とは、現場の活動をスムーズにするための、現場で定義された必要不可欠なものであり、これらは有限です。このコトバが正しく定義され紐付けられていることで、必要な有限のデータの組み合わせに絞りこみつつ、現場の理解・行動を促すのです。

 

■「情報短冊」はこれからのものづくりの現場で必要な3つのものをもたらす

 

—–情報短冊を使うとどんな効果があるのですか?

奥社長:情報短冊は、これからのものづくりの現場で不可欠な3つのものを現場にもたらします。1つ目は、より良い判断、気づきをもたらし行動につなげる「FOA KIZUKI Loop」。2つ目は、分業を補完しさらに、組織変革を促す仕組みである「情報のOver Reach」。そして、3つ目は、グローバルに変動の激しいビジネス環境の中での改善による成長・進化や現場での突発的な変更に柔軟に対応可能な「CTM CELL」です。

FOAの狙い

FOAの狙い

 

—–多品種少量生産や現場での突発変更などは、いずれも最近の日本におけるものづくりの現場で、取り組むべき非常に重要な要素ですね。

 

奥社長:最近リコールや品質関連の問題、トラブルが発生しています。これをもって「現場力が低下している」という発言も耳にしますが、私は少し違うように捉えています。というのも、メーカーを取り巻く環境がめまぐるしく変化しているからです。電子化による製品の複雑化、グローバル化と絶え間ないコスト削減圧力、流通企業のメーカー化など、大きな環境の変化が起きており、これらに今までの現場力が追随しきれていないのです。そこで、現場とこれらの外部環境の変化とのミスマッチを解消するために、より密で広範囲な現場情報が求められ、そこに旬な生情報をベースにしたFOAや情報短冊が有効なのです。

 

—–1つ目の「FOA KIZUKI LOOP」というのはどういうものなのですか?

奥社長:通常、仮説を立てて検証するというサイクルが一般的ですが、FOA KIZUKI LOOPというのは最初に仮説を立てるのではなく、現場の人間が、直接データに触れて気づきを起こせないかと考えて生み出されたものです。学者や研究者はこういうことを普通にやっていますが、実は、現場ですぐれたカイゼンをやる人も、学者や研究者と頭の使い方があまり変わらないと思っています。特にこれからの日本がグローバルで戦っていくうえで、標準化された決まった視点だけで物事を見ていても差別化できません。非定型な業務において、試行錯誤をしながら様々な価値観や仕事の性質を持つ人の視点から生まれる多様な気づき・解釈を事実情報から促し、その気づき・解釈を共有しながら、より良い意思決定や素早い行動に生かすことで成果に結びつけていくことが重要だということです。

FOA KIZUKI Loopによる仮説創造

FOA KIZUKI Loopによる仮説創造

 

—–2つ目の「情報のOver Reach」とはどういうものなのですか?

奥社長:先ほどもお話したように、これまでの定型業務であれば、業務を標準化・効率化して、分業していけばよかったのですが、今後、変化や変動が激しくなると、標準化できないものやこれまでのやり方があてはまらないものがたくさんでてくることになります。その時、分業していると標準の隙間が見えなくなってしまうのが課題です。そこで、情報をもっと広域に、より濃密に共有できるようにしておこうというのが「情報のOver Reach」という考え方です。膨大な事実情報を速やかに共有して組織の経営に生かすことで、非定型業務にスピーディーに対応できるようになり、かつ、現場でのミスマッチも解消されるようになります。

そして、この考え方がさらに進むと、組織が都度情報を欲するという考え方から、事実情報が組織を要請するようになるはずです。どういうことかというと、事実情報にもとづいて、組織やシステムが完成していくということです。社会や顧客の要求に基づく現場の事実情報のダイナミックかつリアルタイムな共有によって、組織やシステムが構成されていくと考えています。これができるのが日本の現場だと確信しています。

事実情報のオーバリーチによる組織改革

事実情報のオーバリーチによる組織改革

 

—–3つ目の「CTM CELL」についても聞かせてください。

奥社長:“情報短冊”は、背景データや説明データを組み合わせて判断やアクションに繋がるように、情報短冊を「独立かつ完結」に理解できるように構成することが重要であることは前に説明した通りです。情報短冊の独立性や完結性、さらに付け加えれば冗長性を持った特徴は、ソフトウェアをカプセル化する上でも大変有用な性質となります。ものづくりの現場では、改善によって日々変化し、当然ITもこれに即応できることが求められます。カプセル化することによって、変化の影響を局所化することが可能となり、変化に柔軟に対応し易くなります。技術的な話となりますが、情報短冊を別名CTM(ContexT Message)と呼びますが、CTM単位にデータとデータの演算やトラッキングなどの処理を担うPath2プログラムを独立性や完結性を持ってカプセル化することを「CTM CELL」と名付けています。

CTM CELLによる柔軟な現場変更への即時対応

CTM CELLによる柔軟な現場変更への即時対応

 

■人と機械が共振・共創・協働する社会づくり

—–FOAが目指すのは、人や組織の業務を支援する仕組みということでしょうか?

 

奥社長:FOAはグローバルで変動の激しい時代の新しいものづくりの現場において、人や組織を最適化していく上で、事実情報を共有し、実践知を生かす仕組みを提供するものだと考えています。一方で、最近ブームのAIや人工知能を用いて判断することも大事になってくるでしょう。AIや人工知能が示した指示にそってだけ動くような単純なものもあるでしょう。例えば、ものづくりの現場で発生するような異音には、人が五感を通じてアクションを起こすこともありますが、人よりも機械のほうが早く気付く(兆候抽出)ことが可能ですし、工場で発生する事故などは人の操作への慣れが引き起こすこともよくあります。そのような場面において、機械が注意・警告を出せるようになれば、随分とトラブルが減るでしょう。

しかし、それだけに依存し過ぎてしまうと、人が考えなくなって指示待ちになってしまいます。AIや人工知能だけでなんとかしようとするのではなく、両方を組み合わせることが大事です。AIなどが使える領域は多く、一方で、ものづくりで改善や現場の工夫は簡単にAIに置き換わりません、絶対に残るでしょう。人と機械が共創できる環境を構築することを考えるべきなのです。

 

—–CTM(情報短冊)の発想は、AIや人工知能でも使えそうですね。

 

奥社長:その通りだと考えています。完結性、冗長性を持った情報短冊は、ロボットでも人間の知恵でもどちらでも使えるようになります。情報短冊を共有する場をつくることによって、人と人、人と機械が協調する仕組みづくりができます。

KIZUKI LOOPとAI LOOPによる機械との共創

KIZUKI LOOPとAI LOOPによる機械との共創

 

 

—–ものづくりの現場に求められるこれからのIoTシステムであることがよくわかりました。

奥社長:ここまでお話してきたコンセプトは、「世界中のものづくりを愛する人のために!」という弊社の想い・理念を一部ではありますが具体化したものです。今後、爆発と言われるほどに膨大になってくる現場データに対峙する時、このFOAのコンセプトとシステムは、ものづくりの現場で不可欠になってくるものと信じています。

株式会社smart-FOA 代表取締役社長 奥雅春氏と会社の「想い」

株式会社smart-FOA 代表取締役社長 奥雅春氏と会社の「想い」

 

インタビュー後記

製造業の現場を熟知されつつ、最近のAIやビッグデータにも造形がある奥社長が、だれよりもものづくりの現場をより良くしていこうとする熱意をもって取り組んできたということがよく分かるインタビューでした。

ものづくりの現場で起きている問題やあるべき姿を常に考え続けられた結果たどり着いた一つの答えが、このFOAという考え方なのでしょう。次回は、実際にこのFOAシステムがどのように作られているのかを見ていきます。

 

 

    

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