2017/07/06

はじめまして。ビッグデータマガジン担当、廣野です。
普段から子煩悩を自負する私ですが(笑)、これから数回にわたって「子供の安全とビッグデータ」をテーマにして、ビッグデータ活用の“今とこれから”をご紹介したいと思います。特に、子育て中の方に見ていただければ幸いです。
第1回目のテーマは、子供の交通安全です。
子供の交通事故、現状は?
子供を持つ親であれば、狭い道で車とすれ違うときに危険な思いをした・・・といったことが、一度はあるのではないでしょうか。
まず始めに、どのような時間・場所・状況で子供の交通事故(以下、事故と略)が起こりやすいのか、まずは現状をおさらいしておきましょう。
警視庁が平成24年に行った調査で見ると、事故の発生件数自体は、この10年で減少傾向にあります。
事故は14時~18時の時間帯に起こりやすいようですが、これは学校が終わった後の時間帯だからでしょう。事故全体の約6割が自転車に乗っているときに発生していて、出会いがしらの事故が最も多いようです(安全確認しない、一時停止しない、などが原因)。
一方、歩行中の事故では飛び出しが最も多く、横断歩道を歩行中に事故に遭うケースが多いことが分かります。
具体的に「危険な場所」が知りたい方は、警視庁が公開している交通事故発生マップを参考にしてみてください。
平成 24年中の各種交通人身事故発生状況(警視庁)より引用
さて、以上のような話は、(何となくでも)一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?つまり、事故が起こりやすい状況というのは、それほど大きくは変化していないということです。
ここで問題は「どうやって事故を回避するか」ですが、最も有効な対策は、子供に身の安全を守る方法を教えることでしょう。
どの学校でも、子供の交通安全教育は実施していますが、子供は注意力散漫で怖いもの知らずなので、この方法だけでは限界があります。
事故をゼロにするためには、別の工夫も必要です。
すでに成果が出始めている「交通安全とビッグデータ」
別の工夫とは、ドライバー側が事故を防ぐ能力を高めることです。
わき見をしない、十分な休憩を取る、車間距離を開ける・・・など、ドライバー自身の努力はもちろん必要ですが、さらにドライバーの注意力や判断力をサポートすることで、事故はかなり減らせるようになります。
これらのドライバー・サポートのために、ビッグデータがとても役に立つことをご存知でしょうか? 代表的な事例である、埼玉県と本田技研工業の取り組みを見てみましょう。
本田技研工業は、会員が車載しているカーナビゲーションシステム「インターナビ」の走行データや各種センサーデータを取集・分析することで、急ブレーキが多発している個所を地図上で特定させました。
この情報を埼玉県へ提供し、道路管理者が現場を調査したところ、生い茂った植え込みで歩行者が見えづらかったり、長い直線道路でスピードが出やすい等の原因が特定できました。
そこで、植栽の剪定や路面標示による注意喚起などの安全対策を実施したところ、急ブレーキ回数が約7割、事故件数が約2割減少しました。
カーナビデータを活用した急ブレーキ多発箇所の安全対策(埼玉県)より引用
ある道路を端から端まで改善するのは、非常に大きなコストがかかります。
しかし、危険個所だけ改善するのであれば、それほど大きなコストではありません。ビッグデータによって「ピンポイントの環境改善」が出来るようになり、事故を効率的に、かつ大幅に減少させることができたのです。
こうした交通安全の取り組みは、今後も全国的に広がっていくことでしょう。
ビッグデータで変わる、交通安全の未来
交通安全におけるビッグデータの活用は、ドライバーサポートのための「環境改善」に止まりません。
すでに多くの車に実装されている「衝突回避支援システム」(速度や障害物との距離を計算して自動でブレーキがかかる仕組み)のように、自動車(機械)が勝手に判断して、自ら事故を回避する技術がありますが、ここでもビッグデータが深く関わっています。
具体的には【機械学習(Machine Learning)】と呼ばれる、ビッグデータ活用でも鍵になる技術が使われています。
詳細をここでは述べませんが、【機械学習】(ここでは統計的機械学習を指します)は文字通りコンピュータが“学習”していくため、データが多くなるほど「正解」を導き出す確率が高くなるという特徴があります。言い換えると、正しい判断が出来るようになるということです。
これによって、どんなメリットがあるのでしょうか?
今後、自動車はセンサーの塊になると言われ、非常に多くの情報をリアルタイムで得ることができるようになります。
カーナビから得られる位置情報や渋滞情報、車体の各種センサーから得られる運転速度・燃費・車間距離などですが、ほかにも、Google社が開発した自動運転車(後述)に設置された「ライダー(Lidar)」と呼ばれる装置では、常時360°に回転しながら、周囲に広がる100万ポイントのデータを毎秒10回の頻度で測定するそうです。(まさにビッグデータですね!)
これらのデータをコンピュータに学習させると、初めは危なっかしいながらも、徐々に学習の精度を高めて「車間距離と速度がこれくらいだと、150m先でブレーキをかけないと前の車に追突するだろう」という予測と判断ができるようになります。
予測結果はすぐに制御システムへ送られて「ブレーキを踏む」といった操作が実行されます。
このように、機械が自律的に判断して運転する車を「自動運転車」と呼びます。自動運転車は疲れを知らず、うっかりミスもありませんので、(十分に学習できれば)人間よりも安全かつ効率的に運転できます。
これこそが、ビッグデータ活用によるメリットです。
「自動運転車」が示唆することは、交通安全は人間主導(注意喚起)から機械主導(自動制御)へと、大きく変化しつつあるということです。
ビッグデータがもっと蓄積されて、自動運転の精度が向上すれば、交通事故の件数は急速にゼロへ近づくでしょう。
今後、自動運転車が増えていけば、地域全体で最適な交通量になるように制御することも可能になるでしょう。
あなたのマイカーは、渋滞や飛び出す子供を上手に避け、救急車両のために一時停止するなど「的確に判断」しながら、最も安全かつ効率的なルートで目的地まで運んでくれるようになるのです。
そんなビジョンを2011年3月に示した人物がいます。グーグル・グラスを開発したGoogle Xの社長、セバスチャン・スラン氏です。TEDでの講演動画をご紹介しますので、ぜひ一度ご覧ください。
彼のビジョンが、そう遠くない未来に実現されることを楽しみにしています。