ビッグデータマガジン

データ連携でタイムスリップ~これまでの常識をくつがえすビッグデータ分析シリーズ第二回~

time 2014/09/18

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
准教授/主任研究員 中西 崇文

■  ビッグデータで本当に価値を創出できるの?

第1回でもお伝えしましたが、総務省の平成26年版情報通信白書では、「2013年の国内データ流通量は8年前の約8.7倍になり、60.9兆円に及ぶ売上向上効果に寄与するなどデータ活用は様々な価値を創出。」といわれています。

今更ですが、読者の中には、「この数字は本当?」、「データから本当に経済に寄与する価値が創造できるの?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。そこで今回は、ビッグデータから価値を創出するためにはどうすればよいかを考えていきましょう。

 

■  ICTが創出できる3大価値とは

「データに語らせる」といいますが、人間でさえ、上手くコミュニケーションしない限り語ってくれないことが多いのに、データが何もせずに語ってくれるわけがありません。今も昔も、ビッグデータでもスモールデータでも、オープンデータでもクローズデータでも、上手く使わないと、ただのストレージ費用を食いつぶす負債となっていってしまうのです。私はこのようなものを死蔵データと呼んでいます。

では、このような死蔵データから価値を創出するためにはどうすればよいのかを考えるときに、一つの手段となるのは、ICTがこれまで創出してきた3大価値というものに沿って考えることです。逆にいえば、これまでのICT、恐らく今後のICTもこの3つの価値を生んでいくことで、人間と共存していくわけです。

ICTが創出できる3大価値というのは、

スケールメリット

規模を大きくすることで得られる価値を意味します。ネットワーク、プロセッサーは速く、メモリハードディスク容量は大きくなり、ICTは進歩してきました。ビッグデータは文字通り捉えれば、スケールメリットそのものを意味します。

 スコープメリット

多角的に進出することで得られる価値を意味します。商品やサービスのラインナップを多くすることによってシナジー効果を生みます。ICTは、同じようなシステムを別の用途で運用したりするのが得意です。

 コネクションメリット

繋げる、繋がることによって得られる価値を意味します。今日のWebはハイパーリンクというコンテンツ同士の繋がりを見いだしたことによって広がっていきました。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が流行するのは、リアルな人と人の繋がりをSNSに反映させたり、SNS内だけでの同じ興味な人の繋がりを見つけたりすることで、新しい人間同士のコラボレーションを生み出しています。

「データに語らせる」ためには、ICTが創出できる3大価値、スケールメリット、スコープメリット、コネクションメリットをどのように見いだすかという観点で考えると、もしかしたら死蔵データが光り出すかもしれません。

 

■  ビッグデータを「ICTが創出できる3大価値」に当てはめてみよう

スケールメリット:データは捨てない、全て使う

現実的には、明らかなノイズやエラーは消さないと分析できませんが、データは捨てない、全て使うことを原則にすることが重要です。これまでの分析では、これまでの知見を活かし、仮説を立て、モデリング(その仮説を示す仕組みを仮想的に構築すること)をし、そのモデリングの中で重要だと思われるデータのみを、サンプルデータ(データ分析対象)として分析していました。
例えば、10年間のデータが眠っているのに、3ヶ月分だけを切り出して分析するということです。これは、ビッグデータが光り輝く価値を創出する瞬間を失っているわけです。
今や全てのデータ解析をするコンピューティングリソースは揃っています。妙な仮説を立てるのはやめ、邪念を一切捨て、データを信じてみましょう。

スコープメリット:データをいろんな角度から見てみる、発想転換する

これまで、「どういう目的でデータを収集するか」を明確にして、データ収集を行っていました。そして、その目的に沿ってデータを使っていました。そこで、折角集めたのですから、別の利用方法を考えてみましょう。
ある仮説を立ててデータ収集をしているならば、データが恣意的になっている可能性がありますが、今や全てのログやデータがストレージに眠っているのです。別の言葉にすると、発想転換です。人間が発想転換し、違う囁きをすれば、きっとデータは急に起き出し、語り出すでしょう。
例えば、3.11東日本大震災のときに、本田技研工業・日産自動車・トヨタ自動車などの各自動車会社のデータ提供とGoogleによって生み出された『自動車・通行実績情報マップ』があります。自動車のデータのことをプローブデータと呼びます。このプローブデータは、元々、カーナビなどで経路を検索する際に、渋滞を避けたルートを求めるために収集していたものでした。渋滞が起こるということは自動車が沢山走っているということであり、プローブデータを使えば、自動車が通った実績が残るので、道路が機能しているという発想になります。
この発想の転換。これこそが、ビッグデータのスコープメリットなのです。
「二次活用可能なデータを利用しよう」という言葉も時々聞かれます。それは、スコープメリットを謳った言葉です。

コネクションメリット:データを連携して使う、とにかく繋げてみる

単一のデータのみで、発想転換してみましょうといわれても、人間の発想などそこそこで終わってしまいます。そのときに色んなデータと組み合わせてみることを考えてみましょう。これこそがコネクションメリットです。
組み合わせというのは、言い換えると、発想を豊かにする魔法といえます。単一のデータから見る角度を変えるというスコープメリットだけを追い求め、発想がどんどん浮かんでくる人は所謂天才という人たちです。我々がその天才に近づく一つの方法があります。それが「組み合わせ」なのです。データの組み合わせ方を考えると、数学上、データの種類が増えれば増えるほど、莫大に増えていきます。これを組み合わせ爆発といいます。
つまり、データの種類が沢山あればあるほど、我々は沢山の組み合わせを考えることができ、コネクションメリットを享受できるのです。

 

■  3大価値を駆使してタイムスリップ―Sound of Honda / Ayrton Senna 1989

このお話は、本田技研工業に残されていた1枚の紙からストーリーは始まります。
それは、1989年のF1日本グランプリ予選でAyrton Sennaが樹立した世界最速ラップの走行データでした。当時のシステムは、もう残っておらず、その紙一枚が残っていたのみです。

まずはその紙で記載されたアナログデータをデジタルデータにする作業からはじまります。できあがったデータは見方によってはスモールデータだったかもしれません。
しかし、ここから、Sennaの癖や当時の走行シミュレーション情報からそのスモールデータの解釈がはじまりました。

この解釈によって二つの価値を生み出しています。走行データの色々な角度から見ることで生まれるスコープメリットと、人が持つ知識とデータを結びつけることによって生まれるコネクションメリットという二つの価値です。

その具体的な成果として、アクセル、ギア、エンジン回転数、スピード、距離、ラップを時系列に起こすことができました。
さらに、走行データから生まれたビッグデータを、鈴鹿サーキットのコースデータ、実際のMP4/5マシンから録音した様々な回転数の音データと組み合わせました。それぞれのデータがスコープメリットを持っていますが、組み合わせ、つまりコネクションメリットにより、当時のSennaの走りを体感できる音、そして動画を作り上げたのです。

まさに、スケールメリット、スコープメリット、コネクションメリットを用いて、タイムスリップを実現したのです。

この「dots by internavi」(http://www.honda.co.jp/internavi-dots/)というプロジェクトはまだまだ挑戦を続けており、プローブデータの様々な活用の可能性を探っています。

 

■  3大価値でビッグデータから今、過去、未来を見る

今回は、データから価値を創出することにスポットを当ててきました。

死蔵データはストレージの維持費を食いつぶす負債です。死蔵データとならないためにも、活かすも殺すも3大価値の視点で、既存データ、アクセス可能なデータを整理していくことが、ビッグデータの活用の第一歩になるかと思います。

一度、データと語らいませんか?


【執筆者情報】

中西 崇文 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授中西 崇文

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授/主任研究員 博士(工学)

1978年12月28日生まれ、三重県伊勢市出身。2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。独立行政法人 情報通信研究機構にてナレッジクラスタシステムの研究開発、大規模データ分析・可視化手法に関する研究開発等に従事し、2014年4月、現職に至る。

つまり、「ビッグデータ」という言葉が流行する前から、異種異分野大規模データ分析に関する研究を続けている。

専門は、データ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析。近年は、ビッグデータ分析手法を通したデータ分析工学分野の創出、ソーシャルメディアコンテンツ伝搬モデルデザインに興味を持つ。知的財産管理に関する諸問題にも造詣を持つ。

著書として、「Perspectives on Social Media: A Yearbook」(Piet Kommers, Pedro Isaias, Tomayess Issa (編))のChapter 4「Toward Realizing Meta Social Media Contents Management System in Big Data」担当(共著)(Routledge刊、2014年8月発売予定)がある。

また、趣味は楽曲制作、ピアノ演奏。ララバイブラザーズのピアノララバイとして、「三枚目のダイアローグ」(GOK RECORD)など、これまで3枚のアルバムCDリリースがある。

Twitter: @piano_lullaby
Facebook: http://facebook.com/pianolullaby
Homepage: http://www.glocom.ac.jp

    

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